「佐助、めえるが来ておったぞ?」
試合が終わり、俺達は自分達の家に帰って来ていた。
夕方、夜ご飯の支度をするため台所に居た俺に、旦那が声を掛けてきた。
テレビを見ていたところ、テーブルに置きっぱなしにしていた俺の携帯が鳴ったとのこと。
名前ちゃんかなーなんて機嫌良く携帯を開き、思った通り名前ちゃんからのメールだったことに更に嬉しくなって緩んだ頬を隠しもせずにメールを開いた。
「…………え……?」
そこに書かれていた内容に頭が真っ白になる。
俺が想像していた内容は試合を労うようなもので、きっといつもみたいに可愛らしく絵文字なんかも沢山使ってお疲れ様なんて言ってくれるものだと思っていた。
けれど携帯が映し出すメールの内容は
"別れて下さい。かすが先輩と、きっと幸せになって下さい"
そう、絵文字も何もなく、只々文字の羅列が痛い程に寂しく、単調に並んでいるだけだった。
「なん、で……」
血の気が引く、という感覚を初めて味わった気がした。
とにかく話をしようと直ぐ様電話を入れてみるけれど、電源を切っているのか聞こえてきたのは無機質なアナウンスだった。
この様子じゃ今日は電源は入れないだろうな、と思い、諦めて携帯を置く。
今日は駄目でも明日、話そう。そう思い、痛む胸の中とぐるぐる回る頭で再度夜ご飯作りに取り掛かった。
「からいでござるうぅぅうう!!!!」
その日、初めて料理を失敗した。
カーテンの隙間から陽の光が射し込む。
布団の中で一晩中、ずっと考えていた。考え過ぎて寝ないで朝を迎えるなんて初めてだ。それも、女の子のことで。
"かすが先輩と、きっと幸せになって下さい"
その言葉は、別れる理由なんだろう。
それならば名前ちゃんは、俺がまだかすがのことを少しでも想っているということを分かっているんだ。
でも、俺は、
「名前ちゃんが、一番なんだ」
かすがと幸せになんてならなくて良い。
俺は、名前ちゃんと幸せになりたいんだ。
かすがとの事を思って名前ちゃんが身を引いたというのなら、それはとんだ勘違いだ。
電話で話すのは止めよう。
明日、学校で直に話す。
嫌だと言われたって、俺の気持ちを全部伝えよう。
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