夏休みが明けて新学期。
昼休みにぶらりと中庭まで来てみれば嫌な場面に出くわした。

今自分が居るところから以外は死角になる場所に女子生徒が数名。
囲まれているのは例の跡部の婚約者。
その時点で分かった。
でも俺に助ける義理なんてないし、跡部も興味なさそうにしていたから巻き込まれる前に去ろうと思った。
出来なかったけど。

パン!と痛そうな音が響き思わず眉を顰める。
あれは腫れるんではないだろうか。
婚約者はぶたれた頬を抑え黙ったまま。
しかしその眼差しはとても力強いものだった。
睨むわけじゃなしにただ真っ直ぐ相手を見つめていた。
跡部から聞いていた話からは想像もつかないような瞳で驚いた。

おい跡部、お前はもしかしたらこの婚約者のことを何にも分かってへんのかもしれんで。

あれは自分の意思をきちんと持っている奴の瞳だ。

あんなに強くぶたれても涙ひとつ流さなかった彼女が、一人の女子に言われた言葉で大きな目を更に少し見開き、やがて俯いた。

「跡部様とお近づきになれるかもーと思ってあんたと仲良くしてたけど、跡部様あんたのこと嫌いみたいだしぃ?もーいいや!」

こんな金持ち学校にもあんな奴居るんやな。
その言葉には俺もいらっとした。
女子生徒達は言いたいことだけ言って下品に笑いながらその場を後にした。

一人残った彼女はゆっくり空を仰いで目をつぶって数秒。
先ほどまでの泣きそうだった顔から一変し、また真っ直ぐに前を見つめている。
そのあとすぐ両手で自分の頬をパチン!と叩いたのにはまた驚かされたけど。



「なぁ」

話しかけるつもりはなかった。
でも興味が沸いて、気づいたら呼びかけていた。

「え?」

「大丈夫なん?頬」

「あ、み、見てたんですか!?」

あわあわとする彼女に思わず笑ってしまった。
こんなに近くで見たことはなかったが、その容姿はあの跡部の隣に並んでも引けをとらないだろう。

「あーあ。赤くなっとるやんか」

そっと頬に触れてみてもそこらの女と違い全く顔色を変えることなくにこりと笑った。

「大丈夫です。一昨日のより痛くなかったので」

「一昨日...?」

「え?はい」

なん、一昨日て。
これ一回じゃないってことか。
そんなん、なんで笑っていられる。
普通なら学校にだって来たくないだろう。こんなことされたら。





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