明日死ぬかもしれない日々の中で、俺は人を愛する事を許されるのか。
ナマエの薬指から抜いた、シルバーのリングを手の中で弄びながら考えた。
左手の薬指から突然指輪を抜かれたナマエは、驚きで唖然としていた。
それもそうだろう。
指輪を抜くと俺は、突き放すように恋人であるナマエに「別れろ」と言ったのだから。




「何言ってんの?リヴァイ」

「俺は本気だ。俺と別れろ」



悲しみか驚きか、ナマエの瞳は酷く動揺を表していた。
頬は強張り、口は言葉を紡ぐことなくパクパクとしている。
そんな彼女の表情を見ながら、俺も左手の薬指に嵌めてあるナマエが嵌めていた物と同じ、シルバーリングを抜く。

手の中には、冷たい輝きを放つ2つのシルバーリング。
それを俺は机の端に置いた。
冷たい輝きを放つリングは、音までも無情に冷たかった。
 


「どうして急に?理由は何?」

「別れるのに理由はいるのか?理由を言って、てめぇが別れるなら言ってやるよ。飽きた。以上だ」



「飽きた・・・・?私に」

「そうだ」



動揺は遂に形を変えて、彼女の目から溢れた。
溢れた涙は頬を濡らし、静かに床へ落ちた。
何時もの俺ならきっと、その涙を拭うのだろう。
否、拭わない筈がない。



「泣けば済むと思ってんのか?」



拭う代わりに出たのは冷たい言葉。
その言葉が余程効いたのか、ナマエは絶望を見たような顔をした。


明日死ぬかもしれない日々の中で、俺は人を愛する事を許されるのか。
きっと答えは、ノーだ。
愛される事もきっと許される筈がない。
心臓を人類に捧げた兵士である限り、調査兵団の兵士である限り。
恋だの愛だの、現を抜かせる程甘くはない。
ならば、愛する事を愛される事を棄てなけらばならない。

そうだろ?



「リヴァイが私に飽きても、私は!」

「うるせぇ。邪魔だ。元々てめぇなんて遊びなんだよ」

「・・・・嘘だ」

「いい加減現実を見やがれ。本当だ」



誰だ?こんな嘘を吐くのは。
嘘を吐いてナマエを傷付ける口は。



「そっ・・・か。私遊ばれてたんだ」

「やっと気付いたか」



馬鹿野郎。遊びな訳ないだろ。



「愛してる、って言ってくれたのも嘘なんだ」

「あぁ」



嘘?笑わせるな。俺は本気だった。
今でも本気だ。



「私。愛されて無かったんだね」

「あぁ、そうだ」



愛されて無い筈がないだろ。
俺は今でもこんなにナマエを・・・・愛してる。



「そっか、そうだよね。兵士長ともあろう人が私なんかを本気にするわけ・・・・無いよね」

「・・・・」



最後にナマエは、涙で濡れた顔で悲しそうに笑えてない笑顔を作り、



「     」



別れましょう、と絞り出すような声で言った。
俺は何も言わず、頷けばナマエは指で目を擦りながら「失礼します」と頭を下げて俺の前から消えた。

大切だからからこそ、無くしたくない。
なら、無くなる前に自分で大切じゃなくすればいい。
全く、餓鬼みてぇな考え方しか出来てねぇ自分を殴りたくなる。
それ以上に強がって、最後までナマエを傷つけた事が気に入らない。

今から追い掛けて、嘘でした。
と言えばナマエは笑って許してくれるのだろうか。
はたまた、呼び出して一からやり直そうとでも言えば、仕方なさそうにいいよと言ってくれるのだろうか。

机の端に静かに寄り添い佇む何も言わない冷たい想い出。
それを俺は掴んで、窓の外へ放り投げた。
 

  

(愛していなかった。それを事実にすればいい)

(最初から愛はなかったんだ)

((結局、人類最強と謳われる兵士に愛された人間は愛されていなかった事になるそうで))
愛されなかった少女Aのお話