夕暮れの丘でいつものように彼を待つこの時間が好き。夕日が綺麗に街に反射してきらきらしているから。

わたしは銀時と同じ塾に通っているわけではないし、出会ったのもわたしの先生と銀時の先生が仲が良くて、そのお使いとして銀時が来たのが最初だった。それから気づけば二人で会うようになって、お互い好きになっていた。銀時と会うのはそんなにしょっちゅうではなかったけれど、一緒に甘いものを食べに行ったりぶらぶら散歩したり、二人で過ごす時間はとても楽しくてどれもあっという間に過ぎて行った。


「よォ、久しぶりだな」


声がしたほうを見上げると銀時が立っていた。団子の串を片手に持っていてラスト一個を頬張る。その一連の動作ですらかっこいいなあと思うのは本人に言うと調子に乗るから絶対言ってやらないんだけど。


「相変わらずお前はここに来んのが早いのな」

「銀時が遅いだけだって」

「うっせ」


いつものように軽口を叩き合いながら並んで座る。ここから見る光景は普段は夕方に待ち合わせるから夕暮れなんだけど、今日は夜に待ち合わせたから満天の星空が見えていた。その中でも先生に教えてもらったオリオン座が綺麗に輝いている。はあ、と息を吐くと白くなって目に見えた。


「銀時そんな格好で寒くない?」

「俺ァ頑丈だから大丈夫なの。それよりおまえは?」

「ん、へーき。マフラーとかあるし大丈夫だよ」


いつもの銀時なら「まぁおまえには脂肪があるから大丈夫なのは分かってたけど」ぐらいのことは言いそうなのに何故か返事がない。変なの、と思いながら右側にいる銀時の左手を握った。思っていた以上に冷たくてわたしの体温を奪っていく。そしてその手を両手で挟むようにすると、いきなりがばっと抱きしめられた。

しばらくしても銀時はなかなか体を離そうとはしなかったし、口を開こうともしなかった。そして話し始めたのは抱きしめられてから五分とか少ない時間だったんだろうけどすごく長い時間のように思えた。

あー、と耳元で銀時の声が聞こえる。どうしたのと聞くと溜息をつかれた。やっぱり、変なの。


「俺おまえに言わなきゃいけねえことあんだわ」

「なあに」

「でもおまえの顔見てるとよ、せっかく決めたことが揺らぎそうになって言い出せねえの。だから、ずるいかもしれねえけどこのまま言うな」

「うん」

「俺は戦争行く。幕府に捕まっちまった松陽先生を助けに行きたい」


夜に待ち合わせするとか、冗談が少ないところとかいつもに増して今日は一段と変だとは思ってた。だけどそれがこんなことになるなんて。きっと彼はわたしが一緒に行きたいと言っても無理にでも置いていくんだろう、なんて思い心の中で苦笑する。いつでもこの人はそうだ。他人のことを考えて自分のことを疎かにしがちだから、わたしだけでも彼のことをしっかり支えてあげなきゃと思っていたんだけどな。


「そっか」


それ以上なにも言えなくて、ただただ沈黙が続いた。わたしがここで銀時を引き止めたところで彼は戦争に行くし、そんなことをして重荷になることが何より嫌だった。松陽先生を助けることに一生懸命になって欲しい。わたしが思える一番の綺麗事だった。


「帰るか、風邪引いたらたまったもんじゃねえし」


そう言って差し出された左手にわたしの右手を重ねる。月明かりと星たちをもう一度見るとやっぱりきらきらしていた。どうやら銀時は夜も遅いから送ってくれるらしい。ふと彼のほうをみると目が合って、どちらともなくキスをする。ずるいなあ。これが最後の逢瀬だと分かっててわたしを離そうとしないんだもの。


「なあ、待っててくれるか」

「当たり前でしょう」


待ってる、とも死なないでとも言えなかった。その言葉でまた彼を苦しめるのは嫌だから。

だから、ねえどこにもいかないで。このまま夜は明けないでいて。明日もまたここで会いたいよ。口には出せない、心の中だけのわがままが溢れ出るのを抑える。目に浮かんだ涙は着物の袖で拭って気づかない振りをした。
優しい夢の中で僕を殺して