「―――――――ぇ」

時折吹く強い風の合間に誰かの抜けた声が聞こえた。
あぁ、我ながらマヌケだ。

「せん、ぱぃ?」

月足がわけのわからない顔でこちらを見る。
仕方ねぇだろ、気付いた時には飛び出してたんだ。

「なんだよ?」
「今、なんて…」
「あ゛ぁ゛っ?」

人生には立てちゃならないフラグがある。
俺にとってのそれは(直感的に)月足との出会いだった気がする。よくわかんねぇけど。

「だから、お前、お前だよ、俺の女になれ」

俺はもう一度、名前も知らない同級生を指差すとそのネクタイを思い切り引っ張った。

「ちょ!ちょっと待って下さいよ可笑しいじゃないっすか、先輩別にその人の事好きでもないでしょ!?」
「すっこんでろ」
「ええぇっ!」
「お前、名前は?」

いまだネクタイを引っ張られたままの男は俺の言葉に苦笑しながらもきちんと答えた。

「同じクラスの灰田」

あ?そなの?
まぁいいや興味ねぇし。
一応こんなかで1番顔が良くて静かそうな奴を選んだだけだし。俺より背が高いのは癪だけど。

「じゃあ灰田、お前今日から俺のもんな?返事はいらない、俺に従え」
「ちょっと待って先輩それ俺に言って下さい!羨まし過ぎるんですけど!」
「うるせぇ」

周りを囲んでいた奴らをぐるっと見渡すと、俺は気付かれないよう小さく息を吐く。

「―――――あ」

引っ張ったネクタイに力を込めて灰田の首に腕を回すと見せ付けるようにその唇を舐め上げてやる。
卑猥な音をたて、ゆっくり、それから噛み付くようなディープキス。灰田も災難だが野郎にキスしなきゃなんない俺も災難だ。
我慢しろよ。

「おい、てめぇら」

灰田を抱き込んだままもう一度周りに目を向ける。

「そんなガキに興味ねぇ、毎日やってるくだんねぇのを続けるなら俺の視界に入らないとこでやれ」
「―――‥っ、は、はい」
「今度俺の視界に入ったらそのガキ共々病院送りな」
「え゛ぇっ!?俺もっすか」
「当たり前だ、月足お前には悪いけど俺こいつで暇つぶしするから二度と俺が好きだとか血迷った事言うんじゃねぇ、わかったか」
「むりです」
「即答、ね」
「絶対いやです」
「わかった、俺は大体屋上にいる好きな時に来い」
「え!いいんすか!」
「あぁ、コイツとヤッてる時に来ちゃったらワリィけど静かに消えろよ?」
「――――――っ」

月足は意外に頭はいいらしい、というか馬鹿じゃない。
今の言葉で多分理解した。
俺が恋愛感情を持ってる人間を相手にするのは煩わしくても、ただのノンケを強姦するくらいわけないと言う事を。
そしてそれくらいには悪趣味であることも。





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