そのうちにとけてなくなりきえてゆく、それでいいのにそれでいいのに
くださいとさしだす右手はやや白く、おんなじ影はのぞめないまま
どこへゆこう、ぎんが、うなばら、むこうがわ、となりの熱を思い出せぬよう
またたいたひかりを不意に閉じ込めた、二人のすきま、零点二ミリ
つかまえてはなさぬようにからめとる、かすかなことば、もろい指先
(そ/く/ど/ま/つ)
惨敗、と、下げた眉毛とやわい頬、ずっと昔に君に負けてる
いみもなく、あなたのもってるものすべて、だきしめたいと思う衝動
もういちど、もういちどだけ振り向いて、あの日のなまえ、おんなじ笑みを
くゆらせた煙をじっとみつめてるきみは大人になってしまった
まざりゆくあなたとぼくの手の境界一つになれぬ三分の一
通じない言葉と意図とコンタクト、安堵しながら今日も想いを、
(ざ/い/も/く/ま/つ)
無花果にかぶりつくよにめをとじたあなたのしろいまぶたを憂う
散りばめた星のかけらは戻らないまっかな舌の上にて溺死
増していく、しまう場所などここにない、あなたはわらう、またあふれてく
月のうえきみをつれてはいけないか、酸素をすてて、世界をすてて
(い/ち/ま/つ)
自由落下、紅茶、スコーン、ぼく、心臓、あなたはどこに?ぼくはここだよ
うみのいろ、たいようのいろ、はなのいろ、あなたと同じいろをみてたい
終点ですお忘れ物はありますか、わすれていたいものなら、ある、よ
真夜中の時計もみえないくらやみのすこしむこうにあなたはいるの
つぎはぎでぼろぼろなこの心臓をあなたはだいじに、だいじに撫ぜる
(じゆ/う/し/ま/つ)
澄みわたる梅のつぼみと常夜灯、真夜中だけが罪を知ってる
(す/う/じ/ま/つ)
おちていくちいさなことばをすくいあげこのてのひらにとじこめてたい
そめあげて街の灯りをのんでゆくあなたとおなじ橙のなか
まどろんだ睫毛のしたに浮かべてる涙のなかに僕は在りたい
つちのなか埋めてしまえばそれっきり、声もあげない想いの末路
(お/そ/ま/つ)
千代紙の折り目をそっと裂くようだ、歪んでからじゃもう遅いのに
ロミオにもジュリエットにもなれやしない傷痕さえも残せやしない
まちわびる、おとしたちいさな言の葉がいつかあなたに降り積もる日を
つらぬかれうちのめされてひしゃげても、ゆずるきはないあんたのとなり
(ちよ/ろ/ま/つ)
そのままで、くるしいままでどこへゆこう、まてどくらせど爪の痕だけ
(そ/く/ど/ま/つ)