狂って 一回転







「ねえ…。こっち、向きなよ」






狂って 一回転



「なまえっちー!…こんなところで偶然っスね!」

「あ、黄瀬くん!?…偶然だね!」



土曜日の昼。なまえは一人で町をぶらついていた。特に目的は無く、目に付いたものを買うでもなく手に取って見るだけ。…所謂ウィンドウショッピングだ。

そこに声をかけてきたのが同じ高校でモデルの黄瀬涼太だった。

彼とはクラスで席が近いということもあり、結構仲が良い。


「…黄瀬くん、今日オフ?いつも忙しそうなのに」

「そうなんスよ!久しぶりの休みだったんで、町ふらついてたらなまえっち見付けたんス」


心底嬉しそうな顔を彼は見せる。そんな彼は年齢よりいくつか幼く見えて可愛らしかった。


「なまえっち、このあと暇っスか?」


黄瀬の言葉に、今日の予定を思い帰してみたが、今日はぶらぶらしてただけなので、特に予定は無い。

「うん。暇かな」

曖昧な言い回しだったけど、それを聞いた黄瀬がうっすらと口角をあげた。


「じゃ、このまま俺とデート、しないスか?」

「えっ…あ、うん!」

デートと言われて一瞬期待する勘違いをしそうになってしまった。だが、これは黄瀬によるただの、「一緒に町回らない?」というキザな言い回しのお誘いなんだろうって感じた。



暫く歩いていると、黄瀬があるものに目をつけた。

「これ…」

「?…黄瀬くん、どうしたの?」


なまえが尋ねると黄瀬はうっすらと笑った。
その笑みにすこしぞわっとしてしまったなまえがいた。


「…この指輪、なまえっちに良くお似合いじゃ無いスか?」

「え、そう…かな?」


そう言って見せてきた指輪は黄瀬の髪色と同じような色をしていた。


「…なんて言うっスか…?…これ、なまえにつけて欲しいっス…。」

「あ、りがと…、う…」


彼から嬉しいことを言われている…。
普通の女の子なら…否、なまえでも、黄瀬くんみたいな恰好良い男の子にこんなこと言われたら嬉しいに決まっている。
だけど何故だかなまえは彼から少しの恐怖に駆られた。


なまえが呆けていた瞬間に黄瀬はそれを買ってきた。

「なまえっち…手、出して」

「あ、はい」

差し出した指にさっき買ってきたそれをスッとはめた。

はめた瞬間に黄瀬はなまえの耳元で呟いた。


「これでなまえっちは俺のものっスね…」


びくっ

先程感じた恐怖感が増して降り懸かってきた気がした。

気が付いたらなまえは黄瀬から逃げるように走って自分の家に向かっていた。

ふと、自分の家が見えて安心した。

しかし、なまえの足は自分の家に近付くにつれて遅くなり、ついにそれは止まった。


「な…んで…?」

自分の口からは疑問しか出て来なかった。

なぜなら、自分の家の前で黄瀬が待ち伏せしていたからだ。


「あ、なまえっち。やっと帰って来たっスね」


いるはずがない。
ただ、追い付くのはわかる。彼はバスケ部だから足が早い。だから別に待ち伏せも出来るのも不可能では無い。


でも 先回りして家で待ち伏せしてる訳がない。

出来る訳がない。


「何で…私の家を…?」

「知ってるかって?…そりゃ、知ってるっスよー。」






怖い…

怖い怖い怖い怖い…

なまえは彼の言葉を聞きながらそれしか考えられなかった。



「だって、ずっと一緒に帰ってたじゃないっスか」



違う。そんな訳ない。

だって、女の友達としか一緒に帰ったことが無い。


「黄瀬く、ん…」

「なまえっち、一言も会話してくんなかったっスけどねー」

「黄、瀬…く、」



もう、何も考えられなかった。

いや、もう何も考えたくない。




何も…見たくない。








こんなにせいかくがくるっていっかいてんしたようなかれはもう────。




狂って 一回転
(私は何を、間違えた…?)



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狂った(病んだ)黄瀬が好きです。←

…って言うか、黄瀬がストーカー…(笑)


黄瀬好きさん、ごめんなさい。