「こころ」(TOR/サレ)





任務から帰ってきたサレは、珍しく怪我をしていた。

そこで、治療員のなまえはミルハウストからサレの治療をするよう言われた。



四星のサレ。
四星唯一のヒューマで性格は残虐かつ残忍。


正直、なまえはそんな性格のサレの事が好きでは無かった。そして少なからず彼に恐怖心があった。


ヒトを殺すのに躊躇いも何も無い。
何より、ヒトの心は弄んでやれば良い、と。そう思っている彼の事は理解出来なかった。




「ねえ、…君、名前、何だったかな?」

「はい!えと…なまえ、です」

急に話し掛けられて心臓が口から飛び出しそうなくらい驚いてしまった。

いくら苦手な相手と云えど、彼の格はとてつもなく上なのだ。
下手な態度や言葉遣いは出来たものではなかった。



「なまえ、ね。ねえ、君は「こころ」って、大切だと思うかい?」

「「こころ」…ですか?」

「そう。こころだよ。そんなに大事なものなのかな?心って」


好きとか嫌いとか
怒りとか苦しみとか
嬉しいとか悲しいとか。


そういうことだろうか。





「…大事だと思いますよ。」

「ふうん…何故だい?」

「何故…?」


言葉が出てこなかった。
「こころ」が何故大事なのか。



なまえが言葉に詰まったのを見ると、サレは興味が無くなったかのように普段付けている白い手袋を付けた。

そして周りを見回し、自分の剣がある場所を確認すると、短く溜め息をついた。



「馬鹿みたい」

「え…?」

「だって、そう思うだろう?答えられもしない、訳の分からない感情を持つことが大事だなんて馬鹿みたい。…やっぱり僕には分からないよ「こころ」の大事さはね」


ふと立ち上がり、先程見つけた己の剣を取りそれを抜いた。その切っ先が月の光りに乱反射して光る。それは薄暗い部屋の中には十分過ぎる存在感を出した。


「あ…サレ様、まだ安静にしていて下さい!」

「でもさ。感情に支配されると動きが鈍るじゃないか」


何を言っているのだろう。
やはり彼の言葉はなまえには理解出来なかった。
それに、何故、彼はそこまで「こころの大切さ」を拒絶するのだろうか。

理解出来ない彼はやはり苦手だと感じた。それに、少し怖い。


「あの…もう治療は済みましたので、また、何かあれば…お呼び下、さい」

彼に恐怖を感じてしまい、一刻も早く部屋から出たくなった。



しかし扉に向かおうとするなまえの前にサレは立ちはだかり、あろうことか剣を向ける。



「ほらね。怖いって「思って」しまったから動きが鈍っているじゃないか」

「あ、の…サレ、…様?な、にを…」

「君は僕を治療してくれたし…そうだね、特別に楽に死なせてあげるよ」




このヒトは本当に訳が分からない。

こういうことしてヒトを苦しめて楽しむ彼の気持ちは分からない。

だから苦手なんだ…。





一瞬の痛みを感じた後、何も分からなくなった。






サレは動かなくなったなまえを見てから、自分の手に目をやると、案の定先程付けたばかりの白い手袋が彼女の返り血で赤く染まっていた。






やはり「こころ」があっても邪魔じゃないか。





そう思いながら扉を開けた。




それからその扉が静かに閉まった音だけがその部屋の中には響いたが、その音を聞いた者は誰もいない。






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あれ、なんでこんなに暗くなったんだろ?

歪んでるサレ様がって書きたかっただけなのに←