暗闇の中に幸せぽつり




「なまえちん、今日星見に行かな〜い?」







暗闇の中に幸せぽつり





いつも通り間の伸びた話し方をする紫原から何とも珍しくロマンチックな言葉が放たれた。


「星?…見たい!」

だがそんな細かいことは気にしないのが私のポリシーだ。
それに、こんなロマンチックなお誘いは普通に嬉しい。


「じゃあ〜…部活終わったらメールするね〜」

「うん!」

話が終わると後ろを向いたまま、私に手を振る。

彼が見えなくなったのを合図に、私も下駄箱に向かって動き出す。

紫原が部活終わるまでは特に何も無いので、取り敢えず帰ろうと思ったのだ。





**********

時間が経って、私の携帯からメールの着信音が聞こえた。

画面を開くと、案の定 紫原からだった。

用件は、
「なまえちん家、着いたよ〜」
だけだった。

わざわざ私の家まで来ると思っていなかったから、私は大急ぎで準備をして家を出る。

ドアを開けると、紫原がコンビニで買ったであろうお菓子を食べながら待っていた。


「敦くん、ごめん!…待った?」

「ん〜?そんなでも無いよ〜?」


紫原の手には、相変わらず美味しいのか解らないような微妙な味のお菓子が握られている。

最初のうちこそは「それ、美味しいの?」とかよく聞いたものだが、今となれば聞く気にもなれない。慣れとは恐ろしいものだ。


「…で、敦くん?…どこ行くの?」

「ん〜?どこ行きたい?」

「…星見に行くんじゃ無いの?」

「ああ〜!それならどこでも大丈夫だよ」

「…は?」


紫原の不可思議な返答に思わず間の抜けた声が出る。

だが、星を見るのに場所が無いとは一体、どういうことだ。


「あ、なまえちん、そろそろかも!上見てて〜」


紫原が腕時計を見て言った。
訳が解らないが、取り敢えず私は紫原の指示に従って上を見た。



数秒間何もなく時が流れてから、夜空のそれは急に姿を現した。


「わっ…!なにこれ!?星がこんなにいっぱい…」


まさかこんな都会で空満開に沢山の星々が散るなんて。

私が不思議に思ってたのが顔に書いてあったのか、紫原がネタばらしをし始めた。


「なまえちん、知ってると思うけど〜、今日この地区今から停電区域なんだよね〜」

「あ、そういえばそうだった!」


すっかり忘れていた。
今日、家にいたら、きっとびっくりしてテンパっていたかもしれない。

しかし…

「都会でも電気消すとこんなに綺麗に星が見えるんだね…」

「本当にね〜。俺もこないだ気付いたばっか〜」


意外とこういうものが好きなのか、紫原は上機嫌だ。


「…敦くん、有難う」

「ん〜?何でお礼?…てかさなまえちん、」

「なーにー?」

「また一緒に見ようね〜星!」


その言葉が嬉しくて、私は溢れ出る笑顔を押さえることが出来なかった。






暗闇の中に幸せぽつり
(勿論!一緒に見よ!)
(じゃ、約束ね〜)




___________

計画停電中に考えた品。

紫原が真面目に部活に向かうなんて!←

あと、紫原の一人称忘れました。ごめんなさい。


この計画停電で被災地の方々が少しでも救われますように…。




2011.3.23(Wed)