▼ 夜の桜
桜も終わりかけた頃、六つ子との花見が実現した。
日も暮れた時間にブルーシートを広げ、大量の酒とツマミを運び入れて各々宴会用の小道具や暇潰しのアイテムを持ち込んで座り込んだ。
『えー、お集まりいただきありがとうございます。
司会進行はおそ松がお送りします』
どこからか調達したスピーカーマイクを無駄に使ったおそ松が、ビールケースをひっくり返した台に乗っかって楽しそうに何かを始めた。
「ちょっと!
勝手に何持ち込んでんの!?」
自由な態度に食ってかかるようにチョロ松が声を荒らげているが、のれんに腕押し、ぬかに釘で…全然堪えてないおそ松は笑ってソレを受け流している。
なんだか関わると面倒な気がするので、視線を逸らすと十四松がどじょうすくいを楽しげに披露してたり、酔ったと思われる一松が真っ赤な顔でカラ松に鬼絡みしてたけど…スルースキルをフル活用して見なかったことにした。
「呑んでる〜?」
そっと視線を逸らした瞬間、ふにゃふにゃ笑っているトド松の右手にはチューハイが収まっていて…ゴキゲンなご様子。
「綺麗な桜に美味しいお酒…後は女子がいれば、ねぇ?」
「ちょっとまって、トド松。
それは女子である私に対しての嫌がらせ?
ねぇ…嫌がらせだよね、それ??」
女子…。と呟きながら暗い表情を浮かべたトド松の襟首を掴んで揺すると、ははは、なにそれ。しらなーい。と乾いた笑いと共に返事が返ってきた。解せぬ。
* * * 少しだけ目を閉じたつもりだったけど、いつの間にか寝てしまっていたようで…目を開けると地面と誰かの足が見えた。…足?
「あ、起きた?」
寝起きの頭では理解が追いつかず、視界に入っている足を凝視していると、頭上から声が聞こえた。…この声は、おそ松。
私はおそ松に膝枕されている。
そう理解した瞬間、飛び上がっておそ松から距離を取る。…カラ松のようなモノを蹴飛ばした気がするが、そんなモノに構っている暇はない。
「な、なな…な!?」
「ちょっと、驚きすぎじゃない?」
あぐらをかいたまま苦笑したおそ松は、皿の上のスルメを口に放り込んでいる。…アレだけ沢山買い込んだツマミや酒が、いつの間にか残りわずかになっている。
普段と変わらない様子のおそ松と、暗いので赤くなった顔もバレてないだろうと気がついて、そっと息を吐いてからおそ松の隣にそっと座り込む。
「…月が綺麗だねー」
「うん、月見酒にはもってこい!」
うまー!と缶ビールをあおったおそ松を横目に、さっきの台詞が告白だとバレなくて良かったような、良くなかったような…微妙な気持ちで抱えていた膝に顔を埋めた。
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