あおいそら

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だからってこれはない

 大阪城下町で慶次遭遇した次の日。
 そう、慶次が城に特攻をかけてきたのだ。

「どいたどいたー!」

 城の兵士さん達だけでなく半兵衛、それに家康までもが慌ただしく出て行くのを見かけた。
 もちろん三成もいつも以上にイライラした様子で私を呼びつけたかと思うと、絶対に部屋から出るな。とだけ言い残して出て行った。
 こんなところにわざわざ慶次が来るとは思えないので、のんびり部屋で縫い物でもしながら時間を潰すことにしよう。

「待て、そちらは許可しない!」

「なんだい、なんだい!
 こっちに三成の良い人でもいるのかい?」

「…ち、違う!」

 縫い物をしている最中、なにやら周りが騒がしいなと思ったら三成と慶次の声が段々近付いて来たことに気がついた。
 …なぜこんな端までわざわざ来る!?
 今会うと、絶対昨日のことをあれこれ聞かれる。…逃げ、れないから隠れよう!
 手早く裁縫道具を片付けて、押し入れの布団と布団の間に身を潜ませた瞬間、勢い良く襖が開いた。

「ここか!」

 どうやら慶次が躊躇いもなく開け放ったようだ。
 その後、部屋に入ってくる足音がいくつか聞こえた。

「…もう気が済んだだろ。
 さっさと帰れ!」

「いや…、畳がまだ暖かい。
 さっきまで誰かが居た証拠だ」

 …えっ、畳触って温度確かめたの?気持ち悪っ。と慶次のセリフにドン引きしていると、ここか!という掛け声と共に押し入れが開け放たれた。
 驚きつつも息を潜め、私は布団。と謎の自己暗示をかける。

「…可笑しいなぁ」

「可笑しいのは貴様の頭だ!帰れ!!」

 ここだと思ったんだけどなー。という声と共に押し入れが閉じられ、そして襖が閉まる音がした。
 やっとこの部屋から出て行ったか。と溜め息をついて、もぞりと布団の間から抜けだして押し入れを開ける。

「…え?」

「お、やっぱり誰か居たって…クコちゃんじゃん!」

 開けた先には、笑顔の慶次と、慶次に羽交い締めにされた挙げ句、口を手で塞がれている三成がいた。
 それを認識した瞬間、はめられた!と苦い気持ちが表情に表れた瞬間、三成が慶次から抜け出し、すらりと抜いた刀身をきらめかせると同時に慶次を蹴倒して首筋に突きつけた。

「ちょ、えー!?
 助けて、クコちゃん!!」

「貴様、馴れ馴れしく…!」

 ワタワタと私に助けを求める慶次だが、何かが気に入らなかったらしい三成の持つ刀がより首に近付く。
 …というか、私にこの状況をどうにか出来るとでも思ってるのだろうか、慶次は。

「…えっと、三成様?」

「なんだ、今忙しい」

「事情は良く分かりませんが、慶次さんが可哀想なので止めていただいても?」

「けいじ、さん…?」

「えぇ、残念ながら彼とは知り合いなもので…」

 わざとらしく残念な表情を作ると、三成は若干渋々といった様子で刀を仕舞い、慶次から一歩離れた。

「後で詳しく聞かせてもらうからな…」

 ぼそりと耳元で聞こえた内容は一旦忘れることにして、ニヤニヤ笑っている慶次に向き合う。

「それで、慶次さん…どうしてここに?」

「あぁ、秀吉に会いに来たんだけど…何故かこちら側だけ厳重だったのが気になってね。
 そしたらまぁ、姫さんが隠れてたってわけだ。
 …で、この人はクコちゃんの恋人かい?」

「…違います、この方は私の上司です」

 案の定勘違いしている慶次にやれやれと首を振ってから三成を仰ぎ見れば…今まで見たことがないような表情で私を見ていた。

「あちゃー、片思いかぁ」

「煩い!
 貴様は秀吉様に用があるのだろう、さっさと行け!」

「邪魔者は退散、ってね!
 頑張れよ、お兄さん!!」

 蹴りつけようとする三成をかわして、どこか軽い足取りで慶次は部屋から出て行った。
 そして私は三成と二人、部屋に取り残された…。

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