!現パロ
燃費が良いのか悪いのか、トラファルガーは女みたいに食が細い。それに加えて子供みたいに偏食なもんだから、うちに来るたび何も食わなくて最初はほとほと手を焼いた。
けれど付き合っている時間に比例して、最近はなんとなくあいつの味覚がわかるようになってきた。
ことり。
ソファーの前のテーブルに、剥いた梨を盛った皿をおいてやれば、ソファーから刺青だらけの手がのびて、皿から梨をひとかけ取っていった。
キッチンでまな板を片付けながら、小さくしゃくしゃくと咀嚼する音に耳を傾ける。
トラファルガーは果物ならだいたい食べられる、ということも最近覚えた。
トラファルガーがずいぶん細いのは、服の上からでも見りゃわかる。しかしキスだのセックスだのをする間柄になってから、脱がして抱いた腰の細さに素で驚いた。
お前ちゃんと食べてんの?思わずたずねればトラファルガー目を細めて、人並みにはな。と鼻で笑ってぐらかすようにキスを俺に仕掛けてきた。その場では素直に流されたが後からこっそり見ていれば、トラファルガーの食事は回数も量も人並み以下にもほどがあるということがわかった。
「おまえさ」
「うん?」
「果物好きなのか」
「…んー」
「梨は」
「梨は好きだな」
「へえ」
トラファルガーが好んでいる食べ物は希少だ。梨なんかではこいつを太らせることはできないが、今度からの買い物では必ず買ってこようと頭に留める。
シャクとまた音がして、トラファルガーが小さく笑う。
「なあ、覚えてて」
「…?なにを」
手を拭いてソファをのぞきこめば、ぐったりと仰向けに寝転んでいるトラファルガーが目を細めて俺を見上げる。
「俺が梨が好きだってこと」
「…?」
「そしたらお前で二人目だ、俺の好みを知ってるの」
機嫌良さそうにトラファルガーは梨を口にくわえる。
二人目、ね。
コイツは自分の好みをあまり主張しないから、かつての人生に、俺と同じようにトラファルガーに寄り添った目敏いやつがいたのかと、俺は少し眉を潜める。だが当のトラファルガーは機嫌良さそうな笑みを崩さないので、こちらもあまり苦々しい顔をするのはやめておこうと髪をすく。けれど気になることは気になるもので。
「なあ」
「?」
「その、一人目は」
「…んー、へへ」
ごろりとトラファルガーが体を捻ってソファーから起き上がる。
手招きされるままソファーに座れば、俺の膝に乗り上げて、啄むようにキスをひとつ、ふたつ、みっつ。
「大丈夫、俺はお前の方が好きだから」
首もとに抱きつきながらトラファルガーは確かめるように呟いた。しっかり響いた言葉のわりに、俺は少し不安になる。
トラファルガーは俺が巡りあったどいつよりも不安定で不確定なやつだから、いつか俺の知らないうちに消えていそうで怖いと思う。なんだかんだ、不健康なこの男に相当入れ込んでいる俺としては、そんなことはできる限りしないでほしい。
ぎゅうと抱き締め返した俺の心を知ってか知らずか、トラファルガーは俺の耳元で笑う。
「大好きだから」
自分の好みをめったに言わない男だから、俺に向けられたこの言葉だけでまたほだされるのだ。
・若干ドフロとかなんかそんな感じのを匂わせてみましたが、案外上手くいっている恋人どもです
・10/09/22 日記にて