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日は、僕と君だけの特別な日。






「貴方、何故お一人なのですか?」
最初は自分に言われた言葉だと思わず、そのまま通り過ぎようとした。
世界でも最も賑わいのある都への街道は、キャラバンを始めとした様々な人々で賑わっている。彼らは一様に楽しそうにしていた。
そんな中、ただ一人鬱蒼とした表情で暗い色のローブを纏い、その手には不釣り合いな長剣を持っている彼に声をかける物好きなどそうそういないだろう。
外見自体はさらっとした金髪に新緑の瞳の美丈夫なのだが。
「あ、えっと、聞こえていませんでした?」
声小さかったかなぁ、と言う声が耳に入って初めてそれが己に向けられたものだと理解し、驚いて振り向く。
すると気付いてもらえたのが嬉しいのか、ニコニコと笑っている青年がいた。恐らく、風貌からして旅の剣士といったところか、年の頃は同じ位だろう。
彼と違う点は青年が爬虫類系の蛇人と呼ばれる種族だった事。
紅い髪、金色に光る瞳孔が開いたような瞳、耳は少々尖っているが人と同じで、耳から頬にかけて鱗が生えている。だが、それが妙に綺麗で魅せられる。
「俺に声をかけるとは物好きだな」
「え?そうですか?」
冷たく言えば青年は気にした様子も無く、首を傾げた。
「あ、失礼ですが、貴方は魔術師ですよね?」
「武器は剣だがな」
「はい、珍しいなあと思いまして」
淡々とあしらわれていると言うのに、青年は相変わらず楽しそうにしている。その様子が、今まで会って来た者たちと違っていたので彼は青年に興味を持った。
改めて視線をやると、少しおかしい事に気付く。
「・・・・・・お前、剣士、なのか?」
剣を扱う者としては随分と細い気がする。それでも、彼よりは鍛えられた身体ではあるが。
「あ、分かります?」
気付いてもらえた事が嬉しかったのか、青年はぱぁっと表情を輝かせ、
「私は召喚剣士なんです」
と嬉々して答える。
その返答に彼は内心驚いた。
召喚剣士は案外なるのが難しい職種だった筈。大量の精霊と契約し従える為に精神をかなり消耗する。その上、武術や剣術も必要となれば体力も相当必要だ。
最初こそ意気込んで頑張る者も多いが、最終的にどちらか片方に落ち着くパターンが相場。

「それでお願いがあるのですけれども」
自分の世界に入り込んでいた彼は、青年に声をかけられハッとする。
「・・・何だ」
「魔術師ですし、治療は出来ますよね?実はお恥ずかしい話、手負いの身でして、その、よろしければ」
この程度の怪我で召喚術は使いたくないんです、と困ったように言う青年に、彼はその傷に気付き唖然としたのは言うまでもない。


右腕に走っていた傷に簡単な治癒魔法を施せばあっという間に、傷は癒えた。その様子に青年はにこりと微笑む。
「ありがとうございました。あ、えっと、私はディクトと申します」
名乗るのが遅くなり申し訳ありませんと律義に頭を下げるディクトに、
「・・・まあ、確かに往来で召喚技を使われたら迷惑だろうしな」
素っ気なく返し、
「俺はオースティン・・・オース、でいい」
と言った。素っ気ない物言いに一瞬ディクトはきょとんとしていたが、名乗ってくれたのが嬉しかったのかまたもやにこにこと笑顔になる。
「オース様ですね!」
「いや、様とかいらな・・・」
「素晴らしい魔術の才ですね、普通、治癒魔法といいますと傷は多少残ると聞きますのに」
オースの話を聞いているのか否か、ディクトは嬉々としてオースティンの魔術の才を世辞ではなく心から讃えている。その様が妙に気恥かしくて、
「修練すれば誰だってできる」
と返すが、
「いえ、オース様は本当に素晴らしいです」
と何故か頑として意見を通す。
此処まできっぱりと言われるとどう反論していいのか分からなくなり、
「今後は怪我するなよ」
とだけ告げてとっとと別れようと判断する。・・・名残惜しい気がするのは気の迷いだと言い聞かせながら。
だが、そうしようとしたのも束の間、ディクトは慌ててオースティンの前まで走りこみ、
「待って下さい」
と引きとめる。その行動を怪訝に思いつつ、どうしたと促せばとんでもない事をディクトは言う。

「あ、あの、私も同行させていただけないでしょうか?もちろんタダとは言いません。今まで学んできた召喚についての情報提供もしますし、従者のように使って下さっても構いません」


その発言にオースティンは暫く固まっていただろうか。
通りがかるキャラバンが何事かと振り返りつつ去っていく事も気にならず、とりあえず頭の中で整理する。

そう、要は俺のお供をしたいとそういう事なのだろう。というかそう言ってる。

整理しているつもりでも若干の混乱をしつつ、
「何故?」
ときつめの口調で問い質すように尋ねる。
「貴方の魔術の才が素晴らしいからです」
さらりと言いのけるディクトに、混乱しつつもオースティンはこれは嘘だと瞬時に見破った。
「俺達は初対面だろ?・・・しかも治癒魔法一つでその判断はどうかと思うが?」
言えばディクトはう、と詰まる。
「え、と、でも、召喚の情報提供とか、その」
「俺はそういうやり取りは嫌いだ。そもそも従者なんていらない」
冷たく言い放てばディクトは俯いてしまう。
その様子が不覚にも可愛らしく見えてしまい、このまま無視して立ち去っても良かったのだがどうしてもそれが出来ず、
「本当の事を話してくれたら考えなくもない」
と気付いたらそう口走っていた。


暫く沈黙が続いていただろうか。
痺れを切らして早く言えと催促しようとした時だった。
「嘘を吐いてすみません」
弱弱しくディクトはそう切り出した。
「あの、実は、私は貴方を拝見するのが初めてじゃないんです」
「は?」
想定外の切り出しにオースティンは首を傾げた。
此処で会うのが初めてじゃないって、そう言われてもオースティン自身はディクトに会った覚えは一度もない。
「以前、王宮魔術対決という催しが会った際に貴方が参加しているところを見かけまして」
「ああ!」
あれか。
納得してオースティンは思わず手を叩いた。
基本何処にも属さず一人気儘に自由に魔術研究をしているオースティンだが、やはり悩みどころはスポンサーがいない事。
つまり資金不足になる事だ。
そのため、ちょくちょくどっかしらの魔術大会や剣術大会に参加して資金を調達している。
ディクトの言っていた王宮対決も、本来なら国に仕えている魔術師でなければ参加できないのだが、開催国であった国王が何を思ったのか今回は一般参加も認めたのだ。そのため、ありがたく参加し、ベスト3でそれなりの資金を調達した記憶があった。
「態と優勝せずに、でも周りに気づかれないような手腕に心惹かれました」
優勝すると勧誘や逆恨みが厄介だと思った為、敢えての優勝から外れる様にしたのだがまさか見破っている奴がいたとは。
ちなみに、ベスト3でも結構うるさかったので、もし優勝をしていたらと思うとゾッとせざるを得ないとオースティンは心中で呟く。
しかしディクトという奴は本当にすごいな、と感嘆していた時だった。

「そこで、貴方に見惚れました」
「は?」

またもやとんでもない事を言うディクトにオースティンは目を丸くする。
今、見惚れたとか言わなかったかコイツ。
ああ、でも見惚れたっていっても技とかそういうのか?とオースティンが考え巡らせていると、
「あ、見惚れたといっても違うんです、そういう意味じゃなくって・・・って事もないんですけれど、ってああ!違います!!」
顔を真っ赤に染め上げて瞳は潤み、あたふたとし始めたのは言うまでもなくディクト。
嘘がつけないタイプってこいつの事を言うのだろうなぁとオースティンは思った。
しかし、まさかこんな人通りの多い道で同性に告白されるとは誰が考えようか。

暫くオースティンはディクトが一人真っ赤になって半泣きになっているのを、本人には申し訳ないと思いつつも楽しく拝見した後に、
「ディクト」
「は、はい!」
少し甘く呼んでやればパッとこちらを見る。
「面白いな」
「へ?」
その様子が可愛くてつい頬・・・主に鱗のついている部分をすっと無遠慮に撫でた。びくりと肩を震わせたディクトに、オースティンは微笑んだ。
初めて笑ってくれたとディクトが嬉しく思った瞬間。

「実はな、俺は蛇が好きなんだ」

ぽかんとした表情になるディクトだったが、すぐにその言葉の真意に気付きまたもや赤くなる。


今日は、僕と君だけの特別な日。
御題提供→リライト





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