小説 | ナノ

を想うような愛情を、恋情と勘違いしているのが分からないのか。





御題提供→リライト

国に捨てられた王子×魔物・・・のつもり。

リエール→18歳くらい。目を見張るような美人。
純粋無垢で人を疑う事をしない。
武術訓練は全く受けていない。

蒼雅→外見年齢20歳前後(実年齢は100歳越)。男前系。
優しく穏やかだが、仕事は仕事と割り切れるタイプ。






そこは広い草原だった。
蒼雅は単身、草原を歩く。
氷狼王フェンリル族の証である、蒼い髪を靡かせながら。
 
蒼雅が魔物王の住む城から抜け出す事は良くあった。
と、いっても人間に干渉した事は今まで一度もない。
己が人間にどれほどの影響力を与えるか、蒼雅はその身を以ってよく知っているからだ。

近々始まるであろう魔物達の抗争による、重々しい城の空気に耐えられなくなり、気分晴らしに散歩している。
それだけだった。

事前に様子を窺って見れば、この広大な草原は「神々の降り立つ場」と神聖なものとされ、祭でもない限り人は此処にやってこないらしい。
実際は此処に来ていたであろう神はとうの昔に他の大陸へ渡っているのだが。

こうして爽やかな青空と草原が続く大地を見ていると、今まで考えていた鬱蒼とする思いが晴れるようだ。
ばれれば大目玉だが、来てよかったと思う。
次の瞬間までは。



大きく草を踏む音、擦れる音。
どう考えても、誰かが走ってくる音だ。
出来ればそれは魔物で、同族であって欲しいと蒼雅は思ったが、どう考えてもそれは人のものだった。そして、その音の後に続くようなけたたましい音。
あまり良い状況ではないのは見なくても分かる。
「油断してたこっちが悪いかなぁ」
やれやれと呟きながら、念のために外さないでおいた飾りのベルトに手をかける。





しゃらしゃらと身に纏う装飾物の音に苛つく。
走っても走っても縮まない距離。
もう、逃げるのも限界だ。

元々、何の装備も無い、まともな靴すら履いてないただの人間が魔物の足に適うはずがないのだ。

そう思い諦めようとした刹那。


キィィィン・・・・・・と金属が擦れ合うような音が草原一帯に響き渡った。

驚き振り返れば、深い蒼の長い髪を持つ、一見すると人間がいた。
しかし、身の丈ほどある巨大な剣を振り回す様は普通の人とは思えないし、頭部の上の方には獣耳がついていた。
豹に似た魔物の動きを完全に封じたその人間のような存在は、
「力量が分からないほど愚かとは思わない、私の前から去れ」
と静かに魔物に告げる。途端、魔物は怯えたように後ずさり、小動物のように逃げだした。
魔物が完全に見えなくなると、持っていた巨大な剣とベルトへと変換させ、身につけ直していた。


魔物が逃げ出したにも関わらず、彼は硬直したままその人を凝視していた。
一体何者なのか、味方なのか、敵なのか。
様々な思いが交錯し、混乱する。

時にして数十秒、しかし彼にとっては数十分に思えるような感覚、その人は彼の方へ向き直す。

「え・・・?」

思わず素っ頓狂な声をあげたのは無理も無い。
てっきり屈強な男なものだと思い込んでいたが、目の前にいたのは穏やかそうな青年というに相応しい容姿をしていたからだ。
左右色の違う双眸は優しく、表情は至って穏やか。
先程の獰猛そうな魔物を一瞬で払ってしまえる程の存在には思えなかった。

「あ、あの」
「此処は人間界では祭でもない限り、立ち入り禁止区域じゃないのか?」
彼が何か言おうとしたが、それを遮るようにその人は言う。
そして台詞に違和感を感じ、思い直してみれば、その人はきっぱりと「人間界では」と言っていた。
つまり、人間じゃないのだ。どんなに人間に近い容姿をしていようとも。
その事実に驚き、息を呑むと、その魔物であろう存在は、
「あ!すまない、驚かすつもりじゃなかった。えっと、私は蒼雅だ。魔物だけど貴方に危害を加えるつもりはない」
と心底困ったように慌てだす。
その人間臭い所作に彼は先程まで抱えていた恐怖心は殆ど消え、
「いえ、こちらこそ助けてもらったのに失礼しました。あ、えと、僕はリエール、です」
とリエールは名乗った。

蒼雅は穏やかそうな表情を崩さないように、ざっとリエールを観察した。
人間の中でも際立つ美形だ、と思う。
柔らかく長い金髪は簡単にまとめられ、瞳の色は銅色。気品のある顔立ちに振る舞い。
恐らく良い家の坊っちゃんといったところだろう。あの程度の魔物であそこまで恐れ怯えている辺り、武術訓練は受けてないと見えた。
しかし、いやだからこそ疑問に思う。
何でこんな青年が、こんな場所にいるのか。
「繰り返すようですまないが、どうしてこんなところにいた?」
再度尋ねてみるとリエールはにっこりと笑い、次の瞬間に蒼雅は耳を疑う言葉を告げられた。

「僕が此処にいると、国が救われるんです」


「国が救われる?何だそれは」
こんな軟な青年を一人草原にほっぽっとくと国が救われる?リエールの言っている言葉の真意が分からず、蒼雅は首を捻る。
リエールはというと、先程逃げ回っていてぼろぼろになっている服や足の擦り傷切り傷を気にしながら、
「僕の国は此処から西に行くとありまして・・・・・・あ、リランという国なんですけどご存知ですか?」
とにこにこしている。
リランといえば以前は群を抜いて秀でていた国だったが、ここ最近魔物同士の抗争の影響もあり、今まで国を護っていた筈の神も去った為どんどん貧弱化していた国だ。
少なからず蒼雅には無関係とは言い難い国だったため、ばつが悪そうに、
「ああ。最近治安がよくないと聞いていたが・・・」
と目線を逸らす。
リエールはそれを気にする事無く、
「そうなんです。だから神官が神さまにどうしたらいいのか聞いたら、リランの第三王子を一人で草原に連れていけば救うと」
「は?いや、待て、リエールはリランの王子なのか?」
「はい!それで、この草原で神さまを待っていたところ、先程の魔物に追われまして・・・」
心の底からその神様とやらの言葉を信じている様子に蒼雅は絶句した。


――人質を要求する神だと?そんな神がいる訳がない。


たまに寂しくなった神が、人を寄こせと告げる事例がある事はある。が、その場合神から迎えに来るのだ。
自分の目でしっかりと選ぶために。
間違っても危険な魔物がいる草原に、単身で来いとは言わない。
大体此処の神はこの地から離れているのだ、まずあり得ない。


「騙り、か」
悪趣味な、と蒼雅が眉を顰める。
「え?騙り?」
何の事ですかとリエールが尋ねる間もなく、
「この地を去るか、私の剣に裁かれるか。どちらがいい」
蒼雅が何もないところを見据えて言った。
リエールは何の事か状況がさっぱり見えず、困惑した表情のまま事の成り行きを見守った。

ふわりと嫌な風が横切った。
旋風のように舞ったそれは、次第に人の形になっていく。
「おや、貴方を呼んだ記憶は無いのですけれどもねぇ」
現れたのは黒髪黒目の年頃の青年だ。ただし、肌は青白く耳は尖っており、背には蝙蝠羽根を生やした魔物であるが。
蒼雅はその魔物を一瞥すると、
「下劣だな、不愉快だ。私にはともかく、リランの王子には近づかないでもらおうか」
リエールを庇うように言った。
「貴様、確か王都で指名手配されていたインキュバス族のシーゼだな」
シーゼは人や魔物を問わず、卑劣な手段でその魂や精を喰らい、最終的には魔物達が集う王都の貴族を殺した男だ。
途中まで追いつめたが、あと一歩というところで逃げられたと聞いていたが。
「まさかこんなところで会おうとは・・・」
この場で叩き斬ろうと構えると、シーゼはくすりと笑う。
「わたくしもお会い出来て嬉しいですよ。蒼雅様」
「な・・・!?」
どうして私の名前を、と蒼雅の動きが一瞬止まる。
その隙を見てシーゼはサッと身軽に間合いを取った。
「魔物王でも最も優秀な側近、フェンリル族の蒼雅様といえば有名ですからねぇ。ふむ、王子もいいですが、貴方も中々・・・」
「・・・・・・」
「フフ、でも、正直貴方にわたくし如きが敵う訳でもないですし」
ニヤリといやみな笑い方をし、
「今回は引きましょうか。暇つぶしには最適でしたよ。人間とは如何に脆く、大勢の為なら平気で一人の命を捨てる事も分かりましたし」
「え、それって」
「貴様!!それ以上言えば斬るだけじゃすまないぞ!!」
「あー怖い怖い、さて私は去りましょうか。ではごきげんよう、麗しき蒼雅様にリランに捨てられた哀れな王子様」
言ってシーゼは消えた。恐らく転移魔法だろう、力量こそ大した事の無い魔物だがその分知識の方が豊富らしい。

人や魔物を殺すだけではなく、どうやら何か実験もしているようだ。
あれはいずれ脅威になるだろう。確実に仕留める為に、情報収集をしなくては。

だがまずは。

「・・・・・・」
リエールの様子をらしくなく恐る恐ると窺った。
いくら純粋かつ鈍感な心の持ち主であるリエールであったとしても、シーゼのストレートな言葉は流石に理解してしまっただろう。
案の定、青い顔をしてふるふると震えていた。
「リエール・・・」
「僕達は騙されていたのですか?それに、僕が国に捨てられたって」
ぽろ、と涙が零れると後は決壊するかのように流れ始める。蒼雅は居た堪れなくなり、優しく頭を撫でてやりながら、
「此処は風が強い。・・・私について来い」




END






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