10000打記念(完) | ナノ

いつかまた、杯を交わしましょう *


「異常」を知らせてくれたのは、竹谷の使役する鷹が中在家と七松の部屋の障子を突き破り鳴いたことでだった
狂いそうなほど鳴いて寝間着をひく鷹に、七松が動く
それはすぐに広がり、長次が縄標で押さえきれないほどにキレた七松をみて、事態は深刻だと

「小平太と留三郎、あと俺が行く。」

潮江の必死に激情を堪えるような声に、立花と中在家は黙って頷く

一刻は走っただろうか?それでも速かった。

先頭に七松をおけば、茂みや生い茂る木々などないようなもの

「あれか。」
「みたいだな。」
「***・・・?」
「小平太っ!!」
「待て小平太!」

鼻につく血の臭いに、七松の瞳孔がひらく
足のバネを最大に使い奴らのアジトに特攻していった七松を食満と潮江が追う

「な、なんだこいつ!」

誰かが叫ぶ。


むせかえるような臭いは血と・・・・・・


完全に野生と化している七松は遠吠えに近い声を発しながらゲスな奴らを引き裂いていく

「文次郎、行けよ。」
「いいのか。」
「俺はこいつらを連れ帰る。」

食満は***の残骸といっても差し支えない体を抱き上げ、起きてるのか気絶してるのかわからない鉢屋たちに声をかける
続いて到着した立花と中在家、善法寺の助けもあり、鉢屋たちは
うろたえ逃げまどいながら血と肉を撒き散らされるゲスな奴らを尻目に、決して無事とはいえない形で救出された

「***っ、***・・・」
「せ・・・ぱ、***、は、」
「いやだぁああ!!***っ!おれ゙、だいじょ、ぶ、だ、がら゙っ、」
「長次!」

半狂乱になる久々知の首に手刀を打ち込んだ中在家に、善法寺は小さく礼を言う
それに対し静かに首を横に振り、中在家はきゅ。と口を真一文字に結んだ

「留三郎。裏々山あたりに***を埋めてくれないか。」
「あとで場所教えてね、留さん。」
「ああ。尾浜たちを頼むぞ・・・伊作。絶対に助けてやってくれ。」
「わかってる。」

ガサリと道をそれた***を抱えた食満を追おうともがく不破を掴む力を強め、立花は苦々しげに息を吐いた

「宝禄火矢の一つや二つ。お見舞いしてくればよかった。」
「ははっ、僕だって腸煮えくり返ってるけど、この子たちを助けないと・・・***に恨まれちゃう。」
「・・・***は、仲間思いだった。」
「わかっている。・・・文次郎もそうとうキていたからな・・・私は我慢するさ。」

新野先生が待機している医務室についた三人は、早速五人の治療に取り掛かった
目を覆いたくなるような五人のうち、竹谷は虫の息であり助かるかわからない状態で
他の四人も決して元には戻らない

「何か手伝えないか?」
「終わったのか、文次郎。」
「小平太は・・・どうした。」

暫くして戻ってきた潮江は、善法寺の指示で治療を手伝いながら、小平太は留三郎と一緒だと呟く

「・・・***は、小平太に一等懐いていたからな。」
「文次郎はよかったの?毎晩毎晩一緒に鍛練いってたんでしょ?」
「今は泣くなよ文次郎。」
「泣かねぇよ。」
「わたしは涙が止まらんぞ!!いさっくん助けて!」
「裏山に埋めてきたぞ。」
「お疲れ。」

中在家から懐紙をもらった七松と、早速袖をまくり手伝い始めた食満が揃えば
先生一人と最上級生六人がかりでの治療は無事に五人を救った・・・あくまで命だけ、は

日が昇りはじめ朝焼けが照らす裏山で
カツンと酒瓶を地面に置いて、六人は杯を掲げた

「***に!!」

くっと一気に杯を空にし、残っていた酒を***の埋まっている場所へかける

「仇はとった。安心して寝ろ。」
「寂しいが、わたしは当分そちらに行く気はない。待ってろよ、ちゃんと。」
「向こうでは***が先輩になるのかな?」
「ふん。先に逝った罰としてこき使ってやる。」
「俺達みた瞬間に謝りながら逃げそうだよな。」
「・・・ありえる。生きて帰るといつもいっていたからな。」

さぁ帰ろう。と誰かがいえば、六人は学園へと戻っていった

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