「あんたで、抜いていい?てか抜かせて。」
「構わないが、俺は娼婦の経験がない。」
「そこにいてくれりゃいいから。」

昇格祝いをねだったクザンが勝ち取ったのはアレクシスを1日自由にできる権利。捨てられていくばかりの有給を使い合わせられた希少な休暇だ

朝一番に約束通りクザンの部屋を訪れたアレクシスはバターを塗り焼き色をつけたマフィンで柔らかく炙ったベーコンと焼きパイナップル、とろけたチーズにマスタードを挟んだものを二つ。サラダにスープを用意しクザンを起こした
寝ぼけながらも起きたクザンはふらふらと席につき、そして完璧に整えられた朝食とアレクシスの私服に数秒で覚醒したのだ

どこぞの貴族のような服装を買い替えるためにショッピングへ繰り出しクザンが前から調べていた店で昼食をとり、午後は当初の目的である二人揃いの何かを探しに店を回った
夕食は色んな店からのテイクアウトをクザンの家でつまみ、少しばかり嫌そうなアレクシスを昇格祝いでしょと連れ込みシャワールームへ。そして、冒頭に戻るのだ

「っ、あ、あっ、はぁ、」
「脱ごうか。」
「んっ・・・おねが、い、」

ゆっくりと肌を滑るようにシャツが脱げる。軽い音は重なり、日焼けのない白い肌が傷を浮き立たせていた。狭いシャワールームで、素肌が触れ合う度にぴくんと欲の塊が跳ねる
無自覚だろう、粘液の滲み出る先端が傷にこすりつけられねとりと糸を引かせた。興奮しきっている様子の恋人は部下ではあるが体格差から押さえつけられれば勝ち目はない。だから、甘ったるい吐息と切なく漏れる声にそろそろかと目を瞑ったのは妥当だろう。下手に身動ぎでもしてスイッチを押したら目も当てられないのだから

「ァ、あっ、イク、も・・・っ、うあっ、ア!アレクシスさっ、なんか、なんか言って・・・!」

ここでの追加要求かと目を開けたアレクシスは今にも泣きそうに眉をハの字に情けない顔をするクザンにそうだなと数秒思案。お願い、出ちゃうから、早く、と乞う姿を見上げる

「クザン。」
「っ、やっ、」
「クザン、・・・クザン。」
「それ好きっ・・・!すきっ、ああ!出ちゃ、うっ、」

好きだよ。なんて言葉はまだ言えないが、今の抱く精一杯を声に乗せることはできるのだ。アレクシスは勢いよく顔や胸にとんだ白濁に伝わったのだろうとそれを手で拭う
肩で息をする体に触れて退けようと押せば、その手はつかまれ壁に押し付けられるように引き上げられた。壁に軽く背を打ち反動でずるりと下がったアレクシスは開いた口に押し込まれた異物に目を眇め問うように巨体を見上げる。通常時一般的な女性一人分はあろう身長差だというのに、半ば座る形の現状では逃げることもままならない

「中の、吸い出してよ。」

拒否を口にできずかといって従わず。今日は随分強引だなと感心すらした。だが、嫌なものは嫌なのだ。アレクシスの中に芽生えた男色の気は未だその域に達してはいない

「・・・あの、さ、おれ、異動になんでしょ?餞別ちょうだいよ。」

今回の昇格でそうなると、サウロにいわれたという。同じ隊になるということで、とても嬉しそうに言われたのは記憶に新しい
どうやらお喋りな異動先らしい。注意することを決意し、哀れっぽく泣いているくせに硬度を保つ塊に舌を這わせその味に顔を顰める。おいしいわけも妙薬になるわけもないそれは、自分のものでも嫌なのに他人のなら倍増だ

「ァ、あぁっ、アレクシスさっ、またっ、」

壁に押さえ付けられる腕が痺れる。喉の奥を広げては擦りあげる異物で苦しい。歯が掠っても悦さそうにする意味が分からないし、何よりこの世の終わりかのように泣きながら達しかけている神経を疑う。アレクシスは食道に直接流れ込む白濁に嗚咽を漏らしながら生理的な涙をじわりと浮かべた

「・・・・・・ありがとう、ございました。」
「げほっ、ごほ、」

気持ち悪さに吐き気を催すその背を撫でながら、クザンは悲しさやら嬉しさやらを詰め込んだ顔で何度か感謝を述べる。アレクシスは分厚い唇に手を触れさせそれを遮り、過ぎたことだとシャワールームの外に脱いだ服を放り投げコックを捻った

「異動に不満があるから、このような奇行に走ったのか?」
「・・・は?」
「普通ではないだろう、男同士で肌を重ねるなど。だが不満を消化するためだと思えば納得できなくはない。」
「なっ・・・!あんたっ、おれがどんな気持ちで」
「言わねば伝わるまい。」
「・・・ッ!!異動を機に無かったことにするんだろ!?汚点だもんな男なんかと付き合うなんてよ!」

うがいをしたアレクシスは何を言っているのかと訝しげに振り返り、漂う冷気に眉間の皺を深くさせる。いつもなら空気を読み謝るクザンは今回ばかりは最後なのだからと噛みついた

「好きになって悪かったよまだ好きだよ別れるなんていわないでくれあんたがおれを憎んで殺したくなるくらいまでそばにいさせてくれ!!」
「勝手な想像で誤解したまま俺を責めるな。」
「何が誤解よ何が勝手な想像だっ!言う気なんてなかったのに異動願いを却下してっ、途端に優しくして、最初からわかってたんだろあんた!おれがもう止めようかって思う度に引き戻させるようなことしてちょっとずつ餌与えてっ・・・、もう自分じゃどーにもなんねェのに・・・!今更っ、いま、さ、らっ、」

ふざけんなよと喚くクザンに凍らされる自分を見ながら腕を硬化させ、気づいて身構える巨体の真横に拳をたたき込む。壁に易々と穴を開けたアレクシスはきつくクザンを睨みつけ硬化を解いた

「俺を人の道から外れさせたのは卿だろう。ならば卿は責任をとるべきだ。」
「死ねっ、てか・・・、」
「それも一つだ。だがな、・・・クザン。」

穿つような衝撃に胸を押さえたクザンはより虚しくなるだけのはずの目前自慰を高揚感と満足感に充たした声色を蘇らせ、一気に熱を上げてアレクシスに手を伸ばす。もしかしたらと、感じた想いは錯覚ではなかったのかと触れた

「独りで思い詰めるな。卿が思うより俺は卿を想っている。だが、愛想を尽かしたというのなら止めはしない。思う存分罵ってくれて構わない。」

何か返さねばと口を開いたクザンはすっと目の前に出された手を見つめ、ストップをかけるような動作に黙る。こういうときは黙るのが得策で、アレクシスの顔を見れば余計押し黙った。騒げば騒ぐだけ、叫べば叫ぶだけアレクシスはより自分を閉じ込め冷静を努める人だからだ

「愛想は、もう尽きたか。」
「・・・尽きたんなら、こんな見苦しくねェでしょうや。」
「そうか。安心した。これからは日中会うこともままならなくなるだろう。俺の家には部屋が余っている。一緒に暮らさないか。」
「一緒・・・に、アレクシスさん家で・・・?」
「無理にとはいわない。」
「あんたはなんでそうすぐ諦めるんだ!逃げんな!」
「逃げているわけではない。意思を尊重したいのだ。」
「たまには押し込んでくれてもいいじゃねェか。本気で嫌なら言うから。」
「そういうものか。」

全身ずぶ濡れのアレクシスは髪をかきあげそのままシャワールームから出て行く。まさか話終わったのかと急いで後を追ったクザンは床に水たまりを作る体に自分サイズのバスタオルをかけた。振り返ったアレクシスはタオルケットみたいだとそれで髪を拭きながら鍵を差し出して揺らす

「いるだろう?」
「っ、いる!」
「俺と一緒に暮らしてくれるか?」
「ちょっ、な、いきなりそんな強く、」
「多少ワガママのほうが卿が安心するのだろう?ならば俺が恥ずかしがって不穏にさせるに愚かだ。」

鍵が手に落ち、その軽いはずの金属がとてつもなく重たいものに感じてしっかりと握った。嬉しいと口元が緩み、だらしない笑みが声とともに漏れていく。嬉しいのかと問う恋人はこれがどんな意味を持つのか分かっていないらしい。底なしの沼に沈むクザンを加速させるような行為なのだ

「いつからにする。」
「今からでも。」
「計画性という言葉を知っているか?」
「善は急げ、思い立ったが吉日っつーでしょうや。」
「そうか。では、そうしよう。」

とりあえずはと、着替え数日分と食器数点。そして枕を持つよう指示したアレクシスは目下の悩みにベッドのサイズを思い浮かべたが、床で寝ればいいかと結論付けて嬉しそうなクザンから目をそらした



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