マルコ

「・・・」
「・・・」
「何か言えよい。」
「いつから花屋に転職したの。」
「うるせぇ。」

ひどい、せっかく何かをひりだしたのに。理不尽に言葉を失ったおれは、また欄干から身を乗り出し海へ吐きだしたマルコにドン引きする
ぼとぼとと海に落ちていく赤い花には緑の葉や茎もしっかりとついていて、どうやって吐き出されているのか不思議なサイズだ。同じ酒を飲んでいた親父が無事なんだから多分酒のせいじゃない

「何か、拾い食いでも」
「してねェよい!!」
「あ、はい、すみません。」

あまりの剣幕に畏れおののきそそくさと退散したおれは、流石の親父も船医にマルコを診るようにいう始末。結局マルコは花を吐く以外異常なしという、いやそれもう異常極めてるよね?状態のまま放免されたわけだが

「な、なあ、大丈夫か?」
「来んじゃねェよい!うつるかもしんねェだろ!」

親父に背中を押され声掛け再チャレンジしたはいいが即座に切り捨てられいよいよ心折れたおれは、とぼとぼとマルコから離れ親父ィと情けなく甲板で酒を呷る親父にしがみついた

「どうしよう親父おれマルコ隊長が心配だ。あんな奇病で死なせないでくれよ。」
「ああ任せろ。息子を守るのが親父の努めだ。」
「ありがとう。」

よいしょと荷物をしょって親父に頭を下げたおれは、送別会もお開きになった甲板を見回し後味最悪だと頭をかく

「船を下りようが息子に変わりねェ。いつでも戻ってこい。マルコも喜ぶぞ。」
「あはは、ありがとうございます。」

挨拶途中で突如はじまった嘔吐で中断したからマルコを除いてだが船中の奴らに挨拶は済んだ。後は寂しくなる前に船を降りるだけだと一度船内に振り向き、ちらと親父をみればグラララと笑いながらくいと船内を示された

「でも、」
「若ェ奴が無茶しねェでどうする!グララララ、いいじゃねぇか喧嘩でもしてこい。」
「ううっ、だって、」

逃げ腰のおれは親父に励まされながら船内を抜けマルコのいる後部へ走る。おれは最後のチャレンジだと叫ぶようにマルコを呼び、振り向いた凶悪な面構えにうっと詰まった

「・・・何だよい。」
「おれ、役立たずでごめんな!」
「・・・・・・あぁ。」
「迷惑かけてばかりで陸の女孕ませて航路逆走させるし、ほんとごめんなさい。」
「まったくだ。親父に土下座してから出てけよい。」
「う゛っ・・・、はい。」
「ブラン。」

しょんぼりと肩を落としながら背を向けたおれは呼び止められ顔だけ振り向かせると、苦笑するようなマルコの顔にきょとりと呆ける
いつぶりだろうが、マルコから眉間に皺の寄らない顔を向けられたのは。ずっと、何年も見てない顔だ

「・・・偶には連絡よこせ。島に寄るからよい。・・・親父に、孫見せてくれ。」
「うん・・・そうする。」

ほらと背を叩いたマルコの手はひんやりとしていて、どうしたのかと聞いたおれは早くしろと足を蹴られて崩れる。痛い。覇気纏わせなくてもいいと思うんだおれ。マルコの蹴りはただでさえあれなのに

「日が昇る前に出るんだろ。」
「目立つからな、おれ。」

黄金と赤の混じる美しい鳥。おれにはただ的だぞとでもいうような派手でキラッキラした鳥なわけだが、それになったおれは空高く飛び上がり長らく羽を休ませてもらったモビーディック号の上を三周まわりばさりと四肢を残し人に戻る
奇跡を呼ぶらしい鳳凰という幻獣の悪魔の実。おれがいくらの奇跡を呼べたのかさっぱりだが、確かに言えることがあった

「ありがとう親父!みんな!・・・マルコ!」

ボゥとあがった青い炎に笑って、おれは幸せを噛み締める。愛してるなんて、言えばおれが楽なだけだから言わないけど

「連絡するから!」

同時期に海賊になって幻獣コンビなんて言われて、でもいつからかおれは嫌われていて一時目すら合わせてもらえなかった。だから、連絡していいといわれて嬉しいし、ほっとしたんだ

彼方に見えるモビーディック号からいつまでも青い炎は消えなくて、おれはめいいっぱい羽を輝かせながら羽ばたく。下には波にたゆたう真っ赤な花が道のように連なっていた




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