エース

「だったらさ、おれと付き合ってみない?」
「月1も会えない恋人なんて嫌だ。ちなみに、ぼくはこの島から出ない。」
「じゃあおれは!?」
「鏡見てからどうぞ。悪いけど、ぼく相当美しいよ?」
「金ならある!」
「残念ぼくもある。」
「世界貴族のわちしの側室にしてやるえ!」
「ここは世界政府公認の娯楽島。そんなものよりうんといい場所にいますから。」

ぽいぽいと求婚をはねのけたぼくは腕をつかまれ振り返り、目の前を埋め尽くすような赤い花にひっ、と小さな悲鳴を上げて後退る
ぼとぼとと落ちていく花は足下に広がっていて、後ろにいた男たちはその異様な光景に逃げて行った

「・・・エース?」
「ブランっ、少し、い、いか?ぅぐっ、」

そして続く嗚咽。とりあえず背を撫でて落ち着くのを待つ。これでは何も聞けない。意味がわからない。どうしたのかと問うぼくの腕を、落ち着いたらしいエースが強くつかんだ
痛いと逃げようとするぼくはちらと舞った炎に青冷めてエースを強く押した。焼かれたらたまったものじゃない

「おれがっ、客の一人なのはわかってる・・・!」
「う、うん、」
「でも好きなんだ!本気で、おれの全部で、」
「エース、」
「あ、愛してる、んだ、・・・っ、ごめんっ、ごめんブラン、他の奴みてェになんねーっていいながらっ、」

嫌わないでくれ嫌われたら死ぬ。とてもじゃないが嘘にはみえない窶れっぷりのエースはぼくをつかんだまま声を荒げ、来てくれとぼくを引っ張る
痛みに逆らえずついて行かされるぼくは見えてくるモビー・ディック号にまさかと今更ながら抵抗をはじめた
エースは泣きそうに振り返り、ぼくの体を抱き締めいきなりキスをする。嫌がるぼくをねじ伏せるだけの力はあるみたいで、舌を噛もうとしてはっとしたぼくは傷を舐めるようにあがるであろう炎を思い浮かべ口内大惨事を避けるために大人しく深くて苦いキスを甘んじて受け入れた

「っ、ふ・・・あ、エースっ、エー、ンッ、」
「一緒に来てくれ、ブランっ、」
「な、なん、で・・・っ、いやだエース!やめ、」
「治んねえんだ、ブランがおれを好きになってくれなきゃ。でもいい・・・っ、う、恨まれてもっ、いまさら、だからっ、」
「話がまったく、ちょ、エース、大丈夫?」

地面に崩れるように膝をついたエースは真っ赤な花を吐き出していく。苦しそうに辛そうに、目を見開いて涙を流しながら
意味が分からなくて、でも移る奇病かもと思いながらも、ぼくは花が詰まったらしいエースの口に指を突っ込み花を引きずり出す
ヒューヒューと喉から掠れた音が聞こえて、エースは首をふりながらぼくを抱き締めた

「エースっ、」
「おれと!生きてくれ・・・!」
「ッ、」

熱い。エースの体温が上がってるのかぼくの体温が上がってるのか。とにかく熱くて、燃えそうだ
誰かにこんな真っ直ぐ求められたことなんてなくて、ぼくは酒に溺れ薬を決めセックス三昧の現状とエースに応えるかを天秤にかけ揺れている
エースは前言ったよなと以前エースが特別だからと教えてくれた秘密をまた口にして、それ抜きで考えちゃくれないかとぎゅうぎゅうにぼくを抱き締めた

「やだな、エース・・・そんなこと、ぼくが考慮したことなんてないよ。」

ぼくは中毒者だ。アルコールに薬物にセックスにスリル。だから金持ちとヤバい奴と天上人を客に持つ
全部なくなってエースだけになったらと想像しただけで発狂しそうなくらいに怖い。ぼく廃人同然のゴミ人間だから、多分自殺しておしまいになるんだ

それでもエースをとるか、自己保身か

「・・・ぼくは、海には出れない。絶対、死んじゃうから。」
「ブランっ、」
「でも、エースがこの島に来たときは・・・うんと特別扱いしてあげるから。ぼくだって、エースが大好きだよ。」

エースは赤い花を吐いてる。吐き続けながら合間に特別、特別、と口にして一生懸命考えているようだ

「恋人にはなれるよ。陸と海で分かれる恋人なんて、今のご時世腐るほどいるんだから、それじゃダメかな。」

ぼくはビブルカードを差し出し、何かあったらこれでわかるねと微笑む。エースはビブルカードを受け取り、大切そうにポケットへしまった

「ダメ、かな。」
「いい。それで、それが・・・いい。」
「ありがとうエース。・・・ぼくがもう少しマトモになれたら、今度はぼくから言うよ。連れてってって。」
「・・・そうしたら、一緒に、海にでれるのか?」
「うん。エースだけなんだから、ぼくが名前を呼ぶの。うんと前から、ぼくだってエースが好きなんだから。」

ぼくはフレンチキスをエースに贈って微笑む。顔を真っ赤にしたエースは純白の花を一輪吐いて、おれも好きだと笑った




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