距離



「悟さん、ぼくも陸にあがりたいんだけどぉ・・・ダメぇ?」
「・・・今日は荷物も多いし、荷物持ちとしてなら。」

よいしょと担がれる布からは血がじわりと滲んでいる。それを受け取ったボルサリーノは行ってくると欄干から飛び降りた悟に続いて船から降りた
悟はスタスタと先を歩くので、ボルサリーノの目は余所見など出来ずに真っ直ぐ悟を見る。信じられないことに、ボルサリーノが陸へ上がったのは悟の船に乗ってからこれが初めてなのだ

「換金をお願いしたい。」

ボルサリーノは手を出してきた悟に荷物を渡し海軍支部を見回す。バウンティハンター専用の窓口なのだろう、ごろごろと出された生首に反応も薄い

「確かめろ。」

バサッとおかれた札束を全部ボルサリーノに放った悟は必要ないと窓口に背を向け、海軍支部から出て行く
札束をなをとかしまって後を追うボルサリーノは海軍支部から出てはっとした。悟の姿がどこにもないのだ
置いていかれたのかと考えたボルサリーノに土地勘などなく、真っ直ぐ悟をみていたせいで船の場所すらわからない
ふらと一歩を出したボルサリーノは次第にその足を速め島中を走り回る
体格は最近悟を越えた。厚みも出てきた。そんな青年であるボルサリーノは、悟を声を張って探すなんてマネは出来なかった
乱れる呼吸のままに走ってようやく船を見つけたボルサリーノに、船員が不思議そうに声をかける

「船長はどうしたんだ?」
「悟さん、帰って、ない・・・!?」
「ないな・・・はぐれたのか?」
「なんだどうした?船長に置いていかれたか。」
「船長一人が好きだからなぁ・・・。」
「俺たちを置いてどっかいっちまったか?」

ひゅ、と息をのんだボルサリーノは血眼になりながら悟を探した。目を皿にし、疲れの出る自分を厭いながら
こんなとき光人間ならそれこそ光の速さで探し出して、とまで考えた矢先、悟はあっさりと見つかった

「悟っ、さ、ハッ、は、ゼェッ、」

島の外れにある鬱蒼とした林の更に奥。土と同化しつつある家屋がぽつぽつと点在するその場所は、忘れ去られたことを怨むように暗く湿っぽい
そんなところに佇む悟はゆるりとボルサリーノを振り返り、興味なさげに視線をそらした

「悟さんっ・・・!」

ひょいと家屋のボルサリーノから見て向こう側へ消えた悟を走りすぎたのもあるが、悟の目の冷たさに震える足でそれでも後を追う
凸凹などないように歩く悟は、立ち止まってはボソボソと何か呟いてふぅと息を吐くを繰り返す

「球磨川くんはすごいな、ほんと。」

それは誰。船の誰でもない名前。ボルサリーノは悟の腕をようやくつかまえ、進行を止めた
悟はまたブツブツと呟き、うまくいかないと笑う。それはもう、綺麗に

「スキルなら作れる。僕は過負荷だ。なら、足りないのはマイナス。」
「悟さん、」

触れているのにひどく遠い。ボルサリーノは悟を後ろから抱き締め、頭一つ分高い自分の背に感謝した
悟を隠して、自分だけが感じられるのだから

「ああそうか、こう、いや・・・」
「なんでっ、名前で呼んでくれねぇんだよぉ!こっち向けってぇ〜!」
「・・・そんな喋り方していたっけ。」

しまったと口を噤むボルサリーノは必死にいつものように笑おうとするが、全くうまくいかない。自分から離れていく悟に手を伸ばし繋ぎとめようとするも、悟はボルサリーノを見上げにこりと笑うだけ
嫌だ。ボルサリーノは首を振り、縋るように跪いて悟の服にしがみつい

「ボルサリーノ。」
「なぁに?悟さん。」
「・・・なかったことに、してあげたいよ。」

出会ったばかりにかわいそうに。明らかに自分を哀れんでくる悟ににこっと笑って、ボルサリーノはぼく幸せだよぉとこてんと首を傾げた

「だから、ずぅっと一緒にいてねぇ〜?」


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