黄昏色
鳴った金属音に、彩は塀の上へあがり音の発生源を探す
ご飯時になんだろうかと見つけた先の忍たまに首を傾げ、見ない顔に更に首を傾げた

「何をしているの?」
「誰だ!!」
「違う違うこっち。」

とんちんかんな方を見る忍たまに塀の上を歩きながら首を振れば、またも異なる方を向く。なぜ地上しかみないのかは忍たまに聞かねばわからないが、彩は仕方ないと降りるわけにはいかない。彩はくノたまで、相手は忍たま長屋の敷地にいるのだから

「ああ違うってば。」
「どこだ!?」
「こっち。君は小平太と金吾みたいなやり取りを私にさせたいの?」

ほらもうと呆れ気味に棒手裏剣をうった彩の目に、キンと甲高い金属音を鳴らし漸く振り向く忍たまの姿が入り込んだ

「・・・誰だ?」
「それはこっちの台詞。私はくノたま六年彩。さあどうぞ。」
「俺は浜守一郎。四年ろ組に此度入った!」
「へぇ、編入生なのね?今年の四年は編入生が多いこと。あなた、こんな時間に一人寂しく・・・落ちこぼれなの?」

落ちこぼれという言葉に眉を寄せる姿へ肩をすくめるような仕草をした彩は、弾かれた棒手裏剣を指差しちょうだいと手を見せる
守一郎は地面に落ちる棒手裏剣を拾い上げ、くるりと回した

「くノ一は危険だと教わった。」
「私も男は危険だと教わってるの。軽くうってくれれば受け取るわ。」

私に真っ直ぐ届くのならと笑みを浮かべる彩に、守一郎はサッと棒手裏剣を構え躊躇わずうつ
手甲に弾かれあがった棒手裏剣はくるくると回り彩の手へ、落ちこぼれではないようねと棒手裏剣を眺める彩は流し目で守一郎をみた

「当たり前だ!俺の生まれは代々マツホド城に仕えし忍びの家系!日々鍛錬日々精進日々躍進!!誰に劣るもよしとしない心持ちで日々打ち込んでいる!」
「ちょっと暑苦しいのねあなた。」
「やる気が漲っているといってくれ!」
「ぷっ・・・」

口元に手をやり目を細めた彩を見上げる守一郎はほけっと口を開け、しゃがんで肘をつき乗せた顔に笑みを浮かべたままの姿を瞬きもせずに見つめる

「ふふふっ・・・そうね、やる気の塊ね。話しかけてごめんなさい、それでは。」

笑って背を向けた彩はひょいと塀から降りて消え、守一郎は急いでその塀を上がった
結っていた髪をおろしてぐっとのびをする彩を呼び止めた守一郎を、彩は今度はあなたが用なのかと振り返る
ふんわりと柔らかな髪へ手を伸ばし塀から落ちた守一郎は、あっと手をだした彩を見上げた

「怪我は?」
「か、髪を、」
「神よ?」
「髪を、触らせてほしい。」
「・・・い、いけれど、」

引き気味に膝をついた彩は珍しくもないはずの黒髪に触れ、そっと触れてくる手に目を向ける
絹糸に触れるかのように眺めている守一郎は自分を見てくる目を見つめ返し、ことりと首を傾げた
こっちが不思議だとでもいいたげに首を傾げ返す彩を、守一郎の目がじぃと見続ける

「もう、離してくれる?」
「なんと呼べばいい。」
「・・・彩でいいけれど、」
「彩、さん。いきなり悪かった。また会いたい。」
「機会があれば。」
「俺は、守一郎でいいから。それじゃ。」
「またね、守一郎。」

鍛錬の途中だということを思いだした守一郎はすくっと立ち上がりそれじゃと塀を乗り越え、立ち上がり汚れを落とした彩はそんな姿をおかしそうに見送った
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