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「・・・よし。」

余程疲れていたのか、泣き腫らした目を閉じて風呂場で寝落ちした三郎を布団に下ろし
武器の手入れのために部屋から離れた

随分な器量よし。

傷は体中にあるものの、顔は子供らしさはなく美しい
ボロボロな今の状態でそうなのだから、健康になれば一層だろう


人買いから逃げ出したのか、飼い主から逃げ出したのか、集落から追い出されたのか、集落から逃げてきたのか

戦争孤児の線は薄そうだ


「終わったら・・・魚でもとってくるかな。」

干し肉も干物もあるにはあるが、それは三郎を一人残すときにとっておかないといけない
三郎がよく眠っているのを確認し、狐面をつけ弓を片手に家を出た




魚数匹を手に勝手口から家に戻れば、しっかりとしまってあるはずの毒薬の香りがする

「・・・何してるのかな?」

ゴトリと薬鉢を落とした三郎が、悲鳴をあげて逃げだした
部屋に充満している毒は、床に転がっている鉢にいれてあったもので、毒性が強い

「解毒剤は、と。」

丸薬を手に、逃げた三郎を追う

一定数いるのだ。助かった後も怯え、逃げ惑い、混乱と恐怖から抜け出せない子供は

納戸の隅で小さく小さく身を丸め、ガタガタと震える三郎は
一歩足を踏み入れる毎に引きつり、目の前までいけばとうとう漏らした

失禁した事実は羞恥心より何かトラウマを呼び起こすものだったらしく
三郎は断末魔に似た悲鳴をあげ、伸びた爪でガリガリと顔を引っ掻き髪を毟った

「三郎。」
「いやだぁぁああぁアアッ!!!やべでっ!!ごないでっ!!!やだっ!!やだぁああぁぁっ!!!!」

大丈夫。なんて言葉はきっと無意味で、だから何も言わない

「ごわいっ、やべでっ、やだっ、」

次第に掠れた声しか出なくなり、とうとう激しく噎せて吐いた
過去に戻ってしまっている三郎は、自分の吐瀉物にも強烈な拒否反応をおこす

どうやら毒薬は飲んでいなかったようで、そこだけは安心できた

(駄目、か。)

埒があかないと、一度だけ強く名前を呼ぶ

「鉢屋三郎!」
「ヒッ!」

ビクリと震えた体とは反対に、目が定まった
そして、カサついた唇がわなわなと形をつくる


***、


「なんですか?」
「っ、***っ!*********っ!!お、おいてかないでっ!!!そばにいてっ!!捨てないでぇっ!!!!」

うわぁっ!と抱きついてきた三郎を強く抱きしめ、捨てないよ。と言い聞かせる

「いたいのっ、やだっ!く、るしいっ、のもやだぁっ!!」
「他にはなにが嫌かな?」
「寂しいっ、の、と、独りっ、こわいっ、怖いぃっ!!」

暗いのが嫌、閉じ込めないで、殴らないで、蹴らないで、いやだいやだいやだいやだ

腕の中でぐったりと、気を失ってしまった三郎と
床の惨状をみて、ため息が漏れた