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「また喧嘩したの?」
「だから、喧嘩じゃねっての。」

散らばった髪を集めていれば、バイト先で仲のいいタカ丸が同じ様に髪を集めてくる

***のバイト先は美容院だ

中学在学中に弟子入りした斉藤幸隆の息子で***の一つ上のタカ丸は、***の親友で
ライセンスを取得し、今では指名客も獲られるようになっている才能ある二人だ

「明日ネイルだったっけ?」
「3Dネイルやりたい。」
「立体にしちゃうの?それ邪魔だよ〜。」
「南国風にしたい。あ、いらっしゃいませ!」

チリンと小さな小さな鈴の音は、来客を知らせる
来店したのは可愛らしい大学生くらいの二人連れの女性客だったが、どうやら初来店らしく
きょろきょろと少しだけ不安そうだ

「えー、そんなに待つんですか?」
「すいません。本日は予約がいっぱいでして。」

黒や茶が混ざった髪を捨て箒をかたせば、タカ丸と二人レジへ行く
横からモニターを覗き込めば、本日出勤の従業員は全員埋まっていて、確かに飛び入りは遠慮願いたい状態だ

「席は余ってますか?」
「一応ね、多少余裕はあるけど・・・」
「僕たちが入りますか?」

父に聞いてきます。と、話し好きで厄介なおば様を相手している幸隆のもとへ行ったタカ丸だが
幸隆がタカ丸の提案を却下することはないと知っている従業員は、同じく承知している***に二人を任せカットに戻る
***は待合ソファーに二人を座らせれば、笑顔で話しかけた

「今日初めてですよね?本日はカットですか?」
「え、お兄さんがやるの?」
「うちらと年かわんなくない?」
「てかイケメン率高いよね、この店。」
「お兄さん名前は?」
「***って言うんだ。」

よろしくね。と柔らかく微笑めば、頬を赤らめた二人が顔を見合わせる
そこへちょうどタカ丸がくれば、***に耳打ちした

「***、いいって。」
「やった。」

***もだが、タカ丸もイケメンだ
ついでに、幸隆もイケメンだ。イケメンがいて腕も確かな店は、女性客が大半を占める人気店
今夜も二人、リピート確定となった


開店は10時、閉店は21時となるビューティー斉藤(幸丸命名)では、閉店後は幸隆による惜しみない技術の勉強会が開かれる
基本0時頃まで行われる勉強会の影響か、従業員は自転車かバイク通勤がほとんどだ
中には店の近くに引っ越した者までいる

「うむ。***は伸び代が大きい。磨けるだけ時間を作り磨けば、20代前半で自分の店を持ち軌道にのせられるでしょう。」

カットウィッグの出来を眺めて整えていれば、横からした幸隆の言葉に笑みが零れる

上機嫌で帰り支度をしていれば、タカ丸が***の背中を叩く
ん?と振り返った***に今日泊まらせて?と笑う

「なんで?」
「正直に言って言い?」
「おう。」

コソッと呟かれた言葉に、***はまぁいいけど。と頷く
それにやった!ととんで喜んだタカ丸と一緒に挨拶をしっかりと店の外へ出れば
予備のメットをタカ丸に渡し、バイクに跨がる

「スーパー寄るか。」
「安全運転でお願いね〜。」
「考えとくー。」

バイクを発進させれば、腰に手を回すタカ丸の体温が心地いい
バイクを走らせ20分弱でつく自宅と店の中間点にある24時間スーパーによれば、軽食を買い
バイクで待っていたタカ丸にスーパーの袋を渡しまた走らせ帰る

ちゃんとあけられていた玄関から入れば、リビングから漏れる光と玄関にある見慣れない靴に少しだけ眉間にしわが寄った