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・・・子供?

身を守るようにうずくまり、目だけでこちらを伺う薄汚れた子供は傷だらけ
髪はボサボサで着衣はその役割を果たしていない

こういうと嘘っぽく聞こえるが、一応言うておく、私は忍者だ。フリーの。
従って、怪しい者は基本見なかったことにして早急に立ち去るのが常
襲ってきたら、殺す。

しかしだ、相手が人の子に見えないバヤイはいかがする

骨と皮と萎縮した臓物しか持ち合わせていないような、浮浪者のそれより貧相に見える飢餓状態の子供

この時代、戦乱を生き抜くためにそれはそれは沢山を手に掛けたものだ
産まれて1日たっていない赤子だとて躊躇わず・・・それは、忍務だったからだが


気づいたら、持っている干飯を手にとり差し出していた
しゃがんでしっかりと目線を合わせてみれば、怯えの色の写る目が疑問を投げかけてくる


だれ?
これはなに?
どうして?


聞こえてくるようだった。

「干飯。かたいが毒じゃない。」
「・・・ぃ、らな・・・・・・い、」
「わかった。」

袋に干飯を戻し、住処に戻るため歩みを再開した
忘れよう。そう決めて



3日ぶりだ
あのあとすぐに依頼が入り、その帰り
3日前と同じように、けれど一層幽霊のようになりながら
その子供はそこにいた。

「よく生きてたな。」
「・・・・・・ぁ、」

掠れた声は呼ぶように発せられたが、それを無視して帰路についた


からん

文机の上に付けていた狐面を投げ置き、目だけ見えるように布を巻いて竈に火をおこす

あまり家にいないせいで、買った生米には虫が湧く
しょうがないので、生米ではなく干飯を常備する

沸かした水に干飯と買ってきた干物を千切って鍋にいれ、煮立つまで大根の葉や干し野菜を次々にいれれば、最後に味噌をおとした
いい匂いに腹が鳴り、お椀を二つ用意してよそる
匙を添えて外に歩けば、慌てたような足音が鳴った

つけてきてたのは、知っていたよ。

直置きに一瞬躊躇うも、地面にお椀を置いて家に入った

「ズズ・・・」

部屋の入り口に腰掛け飯をゆっくり噛み締めていれば、視界のはしにちょろちょろと子供が動く

「いただきますとごちそうさまは言いなさい。」

びくりと震えた子供を気にせず、汁を残らず啜り
食器を洗い子供に近づく

「口にあったかな?」
「ぐすっ・・・ずびっ・・・ズズっ、」

啜ってるのか泣いてるのかわからない子供は、匙を持たずお椀を傾け飯をかっこむ

「ズルッ・・・ゔっ、ぅうっ・・・ぅわぁあああん!!」
「ど、どうした、」

ボタボタと涙や鼻水やらがお椀に入るが、ギャンギャン泣きながらも食べるのをやめない

「名前は?」
「さぶろっ、ですっ、ひぐっ、」
「姓はどうした。」
「ないれすっ、な、いっ・・・な、にもっ、な、くなっ、ちゃ、た!!」
「そうか。私は鉢屋***。お前に鉢屋の姓をあげよう。」

空になったお椀を持ちながら、真っ赤になった目がこちらをみる

「お前は今から鉢屋三郎。私の子供だ。」
「はちや・・・鉢屋、三郎・・・・・・」

笑顔の作り方がわからないのか、ぎこちなく顔を歪ませた子供が、私にしがみついた