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すん。と鼻を鳴らしただけで脳天撃ち抜かれるから気をつけて。って言ったのに
バカな人。くしゃみなんてして

身包み剥がされ臓物を抜かれ、人の形を保っていない肉片の中から骨を一本拝借
火葬も土葬も危険だからしてげられないけど、この骨は削って武器にする

(あなたがいたことは、忘れない。)

十年ばかり行動を共にした人の死も、悲しみにならない
多分、感情が欠落しているんだと思う
依然・・・一人だけ会ったことがある。肉片の前で泣きじゃくる人を
その人は数秒後、首をハネられさようなら


この世界はそういう世界。
死ねば身包み剥がされ
使える臓物は抜き取られ
場合によっては肉を食われ
髪は編んで紐にするために抜かれ
歯や骨は刃物や弾になるからかっさらわれ

血の跡しか残らない人だっている。
人。といっていいのかわからないから、肉片なんて言ってるけど

(・・・長居し過ぎた。)

立ち止まってから2分程
人がくる気配に、私はその場から急いで離れる

(暫く、生きている人を見てないなぁ・・・)

気配だけで奪いにかからないと奪われるから
だから、聴力や嗅覚も異常に発達してる

骨を研ぎながら移動すれば粉でバレるが立ち止まれば尚危険

(そういえば、最後に食事したのはいつだっけ?)

水は一昨日飲んだけど、食事は記憶にない

(私はいつ、死ぬんだろ?)

死にたくはないから、きっと生きていたいんだと自問自答
少し先に小さな子供がいる。多分、私より年下
持っている武器を見て、経口が同じなのを確認し、研いだ骨を握る

驚異的な身体能力は、素質

明らかに格下な相手にも、油断をしたら奪われる
だから、一瞬でけりを付けた

心臓を突き刺した骨を引き抜き、身包みを剥ぐ
武器は換金所へと直ぐに走り出す
換金所や武器屋は比較的安全。5分はいれる

共通の通貨はないが、金や銀、時にはプラチナでやりとりする
鉛や水銀や鉄だって。金属ならなんでも
宝石は無価値

(水場は、)

近かったはず。と換金所を一歩出れば、景色がガラリと変わった

(こ、こは、)

空が青くて雲が白い−灰色以外に初めてみた
木々が青々と風を受けて−自生してる植物なんて久しぶり

そしてなにより、同じか少し上くらいの人が沢山いる

「何者だ!」
(しゃべった、なんて・・・)

驚愕に固まったのは一瞬。

左側の首に宛がわれた刃物を右手で掴み、左手を腕に刺すように打ち込む
そのままその人を地に伏せさせ、目の前にいた若い人を脚払いで倒し、跳ぶ

人の輪の中へ着地し直ぐそばにいた茶髪の深緑を着た人を掴み、塀に跳びあがる

(まずは状況判断。)

全く知らない風景はなんなのか、どうして一カ所に沢山の人が集まっているのか

「テメェ!!伊作を離せ!」
(煩い。)

思わず顔をしかめれば、慣れない人の声達に目眩を覚える

「は、はなしあいませんかっ・・・?」

あの、その、と近くで喧しい茶髪の首にナイフを食い込ませれば
切れ味のいいそれは容易に皮膚を切る

「お主、何者じゃ。」

何者。ときかれても、さっき肉片になった人に呼ばれていた名しかない

「何が目的じゃ。」

目的。は常に生きることだけど、多分そんなことは聞かれてない

「その子を、離してやってはくれんか?」

見れば、周りは皆話しかけてきている老人を見守っているようだ
皆のほほんとしてる。確かに顔は険しい人もいるが、肉付きはいいし血色もいい

(・・・皆、私と違う?)

違う。私はこんな人は知らない
一斉にかかれば殺せる相手を、なんで殺さない?

(オカシイ。知らない。)

なんだこれ?私は今、どこにいる?

「ここは、どこだ。」
「お主、オナゴか・・・」
「ここはどこだと聞いている!私を元の場所へ帰せ!!」

知らない。こんな色鮮やかな場所なんて知らない
わからない。今この瞬間も、殺されない意味がわからない
なんで?盾のために連れてきたけど、茶髪の人ごと撃ち抜けばいいじゃない

「ここは忍術学園じゃ。」
「忍術学園・・・?学園?」

学園とは学校と同義のはず
でも、私の知る世界には学校なんてない

「私の、いた世界じゃ・・・ない?」

そんなわけない!こんな色鮮やかな世界が別にあるなんて
灰色に赤が基調の世界から、なんでこんな世界に?

「あんたが、私をここに?」
「自分の意思って来たのではないんじゃな?」
「違う。知らない。だって、私換金所をでたばかりで、」
「換金所とは?」
「物を売って、金や銀にかえてもらう・・・とこ。」
「いた世界でないというのはどういうことか、説明できるか?」

説明?長く話せってこと?
無理。できない。その間に殺されるかもしれない

「お主に手出しはせん。人質もいることだしの。」

人質?と首を傾げ、腕の中にいる人に意識がむく
顔面蒼白で首から細い一筋の血を流す茶髪の人と、目が合った

(人質、なら・・・どう使う?)

生まれてこのかた人質なんて取ったことも取られたこともなかったもんだから、よくわからないが
ナイフに力をいれれば、肉に食い込む

「空も、雲も灰色で、建屋は九割方廃墟で、いつもどこかから爆音か銃撃の音がして、睡眠や食事はつまりは死で・・・こ、こんなに、沢山の人なんていなかった・・・生きてる人が、こんなに沢山、」
「言葉を信じる。ということは出来るかの?」
「・・・出来ない。声を出したのも、久しぶりなくらい喋らない。」

上手く話せない。言葉なんて幾つもしらないんだから

「その子を離してはくれんか?」

知らない目に見つめられ、自然と頷いていた
とりあえず隣に座らせ、首の傷に液体絆創膏を塗る

「乾くまで触らないで。」
「は、はい、」

様子を伺いながらも地面に降りたのをみて、老人に目を向ければ
老人は不思議な表情をした

(なに、それ?)

口角が上がって、目が下がる
のほほんとした雰囲気がより強くなって、後退ってしまう

「ついてきてほしい。」