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妄想癖のある友人宅の本棚を指でなぞり、新しく追加されている何十冊もある漫画に首を傾げる

「落第忍者乱太郎?相変わらず絵の趣味あわないよねぇ・・・」

一巻から最新刊(多分)を見比べても、絵に殆ど変化が見られない
少し笑いながらトレーを持っている友人を見れば

「ちょ、あんたそこに正座!」
「え、なんで。」

カッ!と目を見開いた友人にひきつりながら大人しくソファーの上に正座すれば
目の前のローテーブルに紅茶と茶菓子が置かれた

「落乱はね、」
「落乱って?」
「落第忍者乱太郎よ!」
「あぁ、うん・・・」

そこから始まった落第忍者乱太郎の素晴らしさ語りと二順させられた映画に、最後のほうは魂が抜けていたと思う

結局わかったのは、幼稚園のときにちらほら見ていた某教育チャンネルでやっていた、忍たま乱太郎というアニメの原作で
五年生が依存系ヤンデレで、六年生が・・・なんだっけ?まぁ、あ、四年生はアイドル学年らしいよ

「滝夜叉丸は知ってるよね?」
「知らないけど・・・主人公が誰かも知らないのに。」
「だ・か・ら!!主人公は猪名寺乱太郎だってば!」
「はぁ・・・あぁ!だから題名に乱太郎って入ってるんだね。」
「なんで!?なんでなの!!?」

キー!っとなっている友人にはいはい。と流しながらクッキーを食べていれば
両肩をつかみガックンガックンと揺さぶられた

「ワンピもナルトもリボーンもブリーチも!!なんなら***にヒットするの!!?」
「全部読んだよ?」
「読んでも主人公の名前すら覚えてないじゃないー!」
「ごめんね。」

毎回毎回。腐女子の世界に引きずり込もうと画策して失敗して
確かに周りはいつの間にか腐女子だらけになっていたけど、私はなかなか入り込めない

今はモンハンにハマってるし

「あの、もうそろそろ行かないと帰る電車なくなるから・・・」
「・・・はぁ。わかったわよ。わざわざ寄ってくれてありがとうね。」
「また出張入ったら寄るね。」

出張に利用する新幹線の駅が地元ということで、毎回帰りに腐れ縁の友人に会ってから帰る
そうすると、決まって終電に駆け込むことになるのだが、どうせ休日移動で会社に寄るわけでもない
だから、お土産を手に友人の美味しい紅茶を飲みに寄るのだが

「んじゃね。」
「また来てね!次は、パイてきなお土産で!」
「おっけ。バンムクーヘンね。」

腐女子養成講座開設はやめてくれないかな

電車の中でモンハンに集中し過ぎて、二駅も乗り過ごすという失態を犯し
しかも、1月中旬だからおかしくはないのだが雪まで舞い始めた

「折り畳み、ないし!」

そういえば、服が入ったバッグにつめて、午前中に自宅宛てに送ったな。と落ち込んだ
不運は続くもので、さっき乗っていた電車と同じくホームについていた向かいの電車が終電だったはずで
二駅分歩かなくてはいけないという事実に挫けそうになる

「救いはスニーカーって、ことでもない。雪にスニーカーって。しみるしみる。」

くっそー!と思いながらコンビニで傘を手にとり、ついでに肉まんと餡まんを買って帰路についた

マフラーと耳当てを送らなかった自分を誉めて、スマホでマップを見ながらぐしょぐしょと音がする道を早足で進んでいく
歩き食いが行儀悪いとか、言ってられない今冬一番の冷え込みを観測したんだよ?昼間で
手袋意味ないよ。指先激冷たい

「・・・寒い。バカ。」
「あの、」
「うっひゃぁああ!?」

街灯が申し訳程度だよ。街灯の下って逆に見えづらくて怖いよ。と、自分の世界に入りながら足を早めていけば
進行方向からふらっと歩いてきた人が肩に触れた

思わず奇声を発した私に、その人も驚いたようで
互いに目を見開き、距離をとる

「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・あの、」
「は、はい!」
「俺を、買いませんか?」
「・・・は?」

そして再び降りた沈黙

見たところ十代半ばと思われる、思春期真っ只中の少年は
じっと、真剣な目を私に向けてくる

「・・・えっと、買いません。」

人身売買。淫行条例。売春。家出人。未成年。真冬に薄着。

ぐるぐる渦を巻く現状を整理するための単語の数々

「さ、寒くないの?」

やっと出てきた言葉は疑問。疑問は疑問でも、季節感のない友人にかけるようなもの

ぱちぱちと瞬きをした少年に、食べてなかった餡まんを差し出す

「冷めてるかもしれないけど、これ、よかったら。」
「・・・ありがとう。」
「いいえ。」

さて。このまま立ち去り、明日のニュースチャンネルで少年の凍死体発見のニュースなんて流れた日には、一週間は鬱になりそう

一週間で復活するのかよ。とは言わないで

頭を下げて近くの公園に入っていく少年を、気づけば追いかけていた

今では希少なジャングルジムに駆け寄った少年と、少年の前にいる四人の少年
五人もの薄着な家出(確定)少年に、足が止まる
笑顔で餡まんを差し出した少年の頭を、薄暗い公園の街灯でもわかるほどの傷んだ髪を持った少年が叩き、怒っているようだ

それは心配した結果、怒っている。という感じで

公園の入り口でその様子をみていれば、一人の少年が私に気づき
他の少年に少年が何か言うと、餡まんをあげた少年がなにやら少年たちに言っている

「・・・五人か・・・五人。」

少年一人なら保護しようと思ったが、五人となると色々足りない
布団は一組しかないし、自宅は2DK。下着はまぁコンビニで買えるとして、パジャマも足りない

あぁでも、明日のニュースで凍死体が五体。となれば、一ヶ月はぐずぐずと引きこもるかもしれない

「っ、ねぇ!」

餡まんの少年が他の少年の制止を無視して走ってくる

「はい、」
「家出?」
「え?家出、じゃないです。」
「未成年がこんな時間に公園で、いや、うん。まぁいいや。あのさ、」
「勘ちゃん!」
「おわっ、」

餡まんの少年を違う少年が後ろから引っ張り、ジャングルジムのほうへ連れて行こうとしている

待って!と大きな声を出していた

「うちに来ない!?三十分は歩くけど、こんなとこにいたら凍死しちゃうよ!」
「え、いいんですか?」
「勘ちゃん!!」
「途中でスーパーによれば、温かい食べ物もあげられるし、お風呂も・・・盗みを働かないって約束してくれるなら、だけど。」
「本当に!?約束すればんぐ!」
「勘右衛門いい加減にしろ!」

バシ!と口を塞がれた少年は勘右衛門というらしい

「っは!でも三郎、他に方法あるのかよ。」
「っ、」
「それに、この人いい人だよ。ね?」
「ね?って、」

言われても困る。とりあえず頷いておくけれど

頷けば、三郎と呼んだ少年を振り払って抱きつかれた
うぎゃ!とその体の冷たさに悲鳴をあげてしまう

「な、なに!?」
「お姉さん名前は?」
「***だよ、勘右衛門くん。」
「俺名前言ったっけ?」
「三郎くんが呼んでたよ。そんなことより、くるの?こないの?」
「行く!皆もいい?」
「いいよ。つかさっむい!早く行こう。」

勘右衛門くんの手を握り歩き出せば、他の少年も警戒しつつついてきてくれた