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六年生にもなれば、朝練云々より夜通し鍛錬する者が多い
だから、夜中の山にはよく入るし、同輩に出くわすことだってある

だがしかし、あれはなんだ

少し先に、見慣れない型の着物を纏った女が1人ふらふらと歩いていた
その女は、突然何かに躓き盛大に転んだ


ほんの数日前だ。天女と名乗る女が死んだのは。


見慣れぬ着物は、天女の着ていたそれによく似ていて
殺すつもりで、近づいていく
けれど、座り込んだ女の声に、止まった

「だれかっ!助けてっ、」

この世の終わりのような声

思わず声をかければ、驚いたような顔が俺をみて
ほっと顔が緩み、その女は心底安心したように声を発した

「人がいたっ!」

天女と対峙したときの、あの靄のかかったような感じではない
幼い頃に感じたことのある

「山を降りて、町に行ける道を知りませんか!?」

その名を「恋」といったか

「知っているが・・・お前はヘイセイからきた天女ではないのか?」
「ヘイセイからきた・・・?って、まるでタイムスリップしたみたいな、」

俺の全身をよく見て、周りを見回す
そして、少し考えた後・・・陶器のような色に顔が変化した

「ここ、どこ・・・ですか?」
「裏々山だ。」
「裏々?えっと、平成ですか?」
「室町だ。」
「っ・・・タイムスリップ、」
「天女ではないんだな?」
「私は、人間です。・・・あの、町への道を教えて下さい。」

揺らいでいた眼が急に定まり、女はしっかりと俺を見据えた

「知らない時代で1人なにをするつもりだ?」
「身売りでもなんでも・・・私、山の中で独りで死にたくない。」

こいつは天女ではない。

確証もないのにそう判断した俺は、手を差し出していた

「一緒にこい。」

逡巡しながらも手をとった女は、名前を告げてきた

「*****です。」
「潮江文次郎だ。」
「潮江さん・・・ありがとうございます。」

頭を下げた女は、少し肩の力を抜いた