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「おっはよー!」
「あんたまた骨折!?今度は何にやられたわけ?」
「なんかねー工事現場が反対車線にあってね、大型クレーンが倒れてきたんだ。奇跡の軽傷。」
「まだ網膜剥離治ってないのにバカじゃないの!?」
「剥離なんて大袈裟な。グランドの夜間照明が私を照らし尚且つ降ってきただけだから。」

誰かが危ない!と叫ぶ。瞬間、野球部のファールボールが窓ガラスを割り破片は***に降り注ぐ
背中を深く抉り突き刺さる破片に叫び、***は血の溢れる腕をおさえて荒い息遣いで目を瞑った

「っ、」

弱音を吐くな。母さんのようになるな。そう父と兄が口を酸っぱくして言い続けていた言葉を、歯を食いしばった中で何度も何度でも巡らせる

『本当堕ちないね。』

瞬き一回。時間が止まったような周りと動く自分。はてなと周りを見回して、***は自分の頭の中に響き伝わる声に息をのむ

『何でもないよ。ねえボク頑張る君にプレゼントを選ばせにきたんだ。』
「プレゼント、って、なに?」
『君が母親のようにならないっていう、プレゼント。』
「・・・くれるの?」

周りが動きだす。後ろ向きに歩くクラスメート、人から出て行く教室のあと日が反対からおちて真っ暗に。次第に日がまた反対から昇る
まるで時間を巻き戻すかのような光景に、***は息ができなくなる。急速に過ぎていく光景は学校を骨組みにし工事現場の足場だけにし、更地にして草が生い茂り焼け野原になり廃墟が屋敷に変わり崩れ。そして、轟々と燃え盛る火の中から屋敷が現れる

「な、なに、」
『じゃあまたね。』
「ま、待って!!待ってよお願い!!!」

船に酔ったときのような感覚と共に時間が巻き戻り、***は気づけば畳の上に突っ立っていた。意味がわからないと自分を抱きしめながら叫ぶ声は届かず、吊っている腕に痛みはない

「お主、どこから参った。」

肩をはねさせ振り返った***はいつからいたのか、老人に首を傾げて貴方が犯人なのかと問いただす。胸ぐらをつかみ必死に私を帰してと泣く***に、老人は目を伏せお主は天女様じゃなと口にした

「てん、にょ?は?なに?」
「名はなんと申す。」
「***。あの、貴方が犯人じゃないの?なら私、お、お邪魔しました!」

急ぎ足で部屋から出て上履きのまま土の上を走る。スカートの下にハーパン履いててよかったと本気をだして走れば、過ぎる景色の和風屋敷具合に***の顔色は悪くなるばかり。邪魔なギプスはしょうがないが吊るのはもういいと包帯を丸めてポケットに突っ込んだ
喧嘩に巻き込まれ知らない場所へ連れて行かれたことはあれど、一歩も動いていないのに周りが見知らぬ場所になったことなどない。怪我の一切ない身体などいつぶりかと、そういう時に必ず起きる「死ぬほど怖い出来事」を想像して挫けてしまいたいとおもった瞬間、枝が刺さった不自然な葉っぱを過ぎたその足が穴の空いた地面に吸い込まれた

「な、んで・・・!」

マンホールの蓋が砕けて落ちたときを思い出して、***は頭を守るように丸まって落ちる
体中擦って土壁が崩れて降り落ち、***は埋まっちゃうと助けてと這い上がろうとして余計に壁を崩してしまっていた

「おやまぁ、僕の作り方が甘かったんですかねぇ?」

影が指す声の方を見上げた***は、ダークグレーの長髪少年に驚き土壁ぎりぎりに寄る。自分より明らかに年下の少年は誰なのか、淵をつかんでこんな脆かったかなと少年は納得いかないように***を見ていた

「だ、誰っ?ううん誰でもいいのっ、助けて!」
「いいですよ。その代わり、僕がこんな落とし穴を作ったのは内緒ですから。」
「え?う、うんわかった、わかった。」

はいどうぞと差し出された手を掴もうとして躊躇った***は、少年を引きずり落として怪我をさせるところまで想像して手を引っ込める
その手を首を傾げながらつかんだ少年は、埋めるので早く出てくださいと勢いよく引っ張り上げた。少年の足元が崩れ、***の準備を待たず地上へと引き上げられる

「・・・すごい力、」

呆気なく上がることのできた***はへたりこみ少年を見上げると、ばっさばっさと穴を埋めていく姿が
お礼を言おうと立ち上がり口を開いた***は足を挫いていたのか、足に力が入らずぐらつき少年を押すように倒れてしまう。少年の前にはまだ土をいれはじめただけのふかふかな穴があり、そこに向かって少年の背を両手で押してしまったのだ
どこかから喜八郎!という声が***の耳に届き、喜八郎と呼ばれた少年は倒れる中で振り返り一緒に倒れてくる***の腕をひいて抱き締める。驚いて声も出ない***は衝撃に備えて目を瞑り、土を押し固めるように穴へ一緒に落ちた

「っ・・・あ、あまり、痛くない?」
「僕が下敷きになりましたからね。」
「ご、ごめんなさい!大丈夫!?ごめんなさい本当に、あの、怪我は」
「汚れただけですから。天女様は無事ですか?」

穴の上から聞こえる少年を呼ぶ声を無視しながら、少年は首を傾げる***のブレザーに触れる。天女ブームなのかなと一応違うと名を名乗り訂正をした***に、少年は変わった人が降ってきましたねぇと自分を呼ぶ声に立ち上がった

「あのっ、名前、」
「綾部喜八郎です。」