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「こんな所にいたのか。」
「・・・あなたは・・・なぜ、ここに?」

顔を上げた***は丁寧に手当てされた肩に触れてくる雑渡に向け、お願いしてもいいですかと簪の欠片を板の隙間からほじくり出してみせる。キラリと光った紫に目を細めた雑渡は、違和感の正体に***の頭をつかんだ

「痛っ、」
「今日は目が合うね。」
「わかりましたお願いはしません。・・・ただ、」
「借りを返せ?だから君はもっと」
「私は死んだと、伝えてください。もし、私を気にしてくださっているのなら。」

そうじゃないならいいです。雑渡の手に欠片を置いた***は笑みを浮かべ、ぺこりと頭を下げる。雑渡はその頭を撫で、いいよと振り返った

「この檻から出してあげよう。」
「え?いえ、」
「勝手に連れ出さないでちょうだい。」

くノ一の姿に姿勢を正した***はクツクツと笑う雑渡に驚き困惑する。雑渡が***の足枷を壊し、***を抱き上げたのだ

「ヒッ・・・!!」
「今までずっと忍術学園にやれたんだ、できるだろ。」
「その子は私が育てたのよ、どこにもやるものですか。」

腕をつかまれ落ちかけた***は不安げにくノ一を見つめ、くノ一は雑渡を睨む。雑渡は冷めた目でくノ一を見下ろし、くだらない執着だと吐き捨てた

「くだらないですって?」
「この子を必要とする人がいる。求め探す人がいる。可能ならその手、離してあげな。」
「私は感謝しているんですっ、だから、あなたが私を望んでくださるなら、私はここにいます。だから、おろしてください・・・」
「ほら、こうやって自分を殺してる。」

おろしてと暴れる***をより強く抱きしめた雑渡は、血の気をなくす***にやれやれと首を振る

「自由にしてあげな。城主の許可は大分前におりているはずだ。」

学園長からの嘆願書があったから。にやりと笑った雑渡に苦虫を噛み潰したような顔をしたくノ一は、好きなの?と***に顔を向けた

「・・・?」
「土井半助が、好きなの?」
「・・・・・・は、い。」

好きになってしまったという***に情けない顔で***を抱きしめたくノ一は、お願いするわと簪の残りの欠片を渡し背を向ける

「・・・たまには、会いに行ってもいいかしら。」
「えっ?え、あ、」

意外と聞き分けがいい。そんな感想を抱きながら***の希望を叶え床へおろすと、雑渡は行こうと手で示した。戸惑う***の手を引きながら
本当にいいのかと振り返りまた雑渡へ視線を戻した***は目の前にいる見知らぬ男に悲鳴をあげ手を振り払う。その口を塞ぎ、雑渡はため息を吐き出した

「元のままじゃ怪しすぎるでしょ?変装だよ変装。」
「は、離してっ、」
「あのねぇ、さっきまで平気だったじゃない。」

やだと口を開きかけ閉じた***は、ごめんなさいと精一杯絞りだす。目は真っ直ぐにあらぬ方向を見てはいたが

「馬に蹴られてって言うからね。」
「・・・?」
「私たちが、恋路を邪魔したようなものだからさ。ちょっと責任感じてるんだ。」

それが嘘か誠かわからないが、***は何も言わずただ深く頭を下げた
雑渡は***を城壁の外へ連れ出すと、選手交代と逃げようとする***の腕をつかんだ

「逃げないの。」
「心の準備がっ、」
「いらないよそんなもの。」

私はこれで。引きずるように目の前に立たされた***は消えた雑渡にきょろきょろ周りを見回し、ゆっくりと顔をあげる。目はすぐにそらされたが、もう逃げる気はなさそうだ

「・・・最初に、謝らせてください。」

膝をつき手をつき、額を地面に擦り付けるように頭を下げる土井に、***はびくりと跳ねた。いらないとでもいうように、首を振りぎゅうと唇を結ぶ

「どんな言い訳をしようと、消えない傷を与えたことに変わりありません。申し訳ありませんでした。」
「私も土井先生を手に掛けようとしました。これは、必然ですから。」

どうせ誰にみせるわけもない。髪を整え頬に残る傷を隠した***は手にある簪の欠片を握り自分を落ち着かせた

「もう、土井先生ですか?」
「はい。」
「よかった・・・」
「もう、私は過去ですか?」

きょとりと不思議そうに笑みを崩した***に心当たりはない。疑問のままに首を傾げる***の視界に土井の手が映り、目を合わせられる
微かに息を詰める姿に遠慮せず、土井は少しだけ小さな声で***に投げかけた

「好きは、もう終わりましたか。」
「・・・・・・あっ、」

思い出したのか、***は頬どころか顔全体を、首まで真っ赤に染めちがうのと頭を振る

「だって、死ぬと思ってたから・・・!」
「た、確かにあの時は、その・・・今は、違います。」
「っ、す、きですっ、いまでも、でも、ちがうんですっ、」

辿々しく伝えながら土井から離れた***は忘れてくださいと半ば叫ぶように、手をのばす土井から逃れ忍術学園に向けて姿を消した。それはもう、土井すら対応が遅れるほど機敏に