1 
なぜだろうか。考えた***は新しく増えていたくノ一仲間に一礼だけし、馴染みの方へ歩いて行く。恐怖はない
調子は整ったのね。感は戻ったのかしら。小さい頃を知る馴染みたちは***に声をかけ、***もまた問題ありませんと笑み返した
改めて貴方はここよと見取り図を見せられる。ドクタケ城。戦好きで有名な城だが、如何せん忍びの質が劣悪で評判がそっちでも悪い城でもある。タソガレドキ城と異なるのは、忍びの質が大きい。だから、ドクタケ城への警戒はタソガレドキ城より緩い

「最近、腕のある軍師が雇われたみたいなの。その調査よ・・・貴方とあの人という話だけれど、大丈夫かしら。」

こくり。小さく頷いて、***は口当てを上げ見取り図をなぞり一歩下がる。取りかかるわよ。そんな声に、いち早く姿を消しながら

月のない夜だ。星明かりなど必要ともしない***はドクタケ城を見ながら、木に背を預ける向かいの木にいるくノ一の合図で木から降り軽やかに城壁を越える。沼があろうが城壁がそびえ立とうが、並みのくノ一ではないのだ。それに、なぜか城門の方が騒がしい、好機でもある
見せられた見取り図の与えられた目星に迷わず侵入できた***が、下を覗くのを一瞬躊躇ったのは予感だ。すぐに首を振ったが、どうしても木の隙間からさす光へ近寄れない

「騒がしいな。」

呟きは***の耳にするりと入り鼓膜を揺らす。この声はと、***は息をするのも忘れ暫し硬した

「軍師を、殺しなさい。」

頭に直接言われているかのような命令を反芻した***は意を決し、毒を滴らせた苦無を握り部屋へと降り立つ。刃はかわされ、受け止められた
けれど、歴然かと思われた力の差は躊躇いのない***の一撃と万全な順番により狭まる

「小細工だけで勝てると思うか。」

ぽたりと滴り落ちた毒は***が以前諸泉に不慮の事故で与えたものだ。効果は抜群、部屋にいた男は微かにふらつき目を細めた
***はその隙に逃げにはいる。後は時間が男を殺すからだ
天井裏へ逃げた***の足が僅かに、呻くような声に止まってしまう。脳裏にちらつくのはあの夜きり丸に向けられた目であり、鐘楼の元で向けられた動揺でもあった

「っ、」

振り返った瞬間、***はまるでその首刈るかのような刃物に息を詰め仰け反る。その首がつかまれ、叩きつけられるように天井板へそしてそれをぶち破り床板へと落ちた

「げほっ、っ、ぐ、」

何の感情もない目が胸元へ向けられ、首に負荷がかけられすぎた***の咳き込みで浮いた共襟を開かれる。鍛えられない首はダメージを受けやすいのだ
涙目になりながらもその手に触れた***は鳥肌を無視して先を予想し抵抗を試みるが、鳩尾に一発意識が遠のいた

「・・・これだな。」

丸薬を一つ探し出し飲んだ男は気を失ってはいない***の首に***の苦無をあてがう。口当てを剥ぎこれはと城をいくつか思い浮かべる男へ、***の声がするりと浸透した

「好き、でした・・・ごめんなさい・・・」

手から苦無が落ちる。震える手を信じられないものを見る目で見つめた男は意識を失った***へ顔を寄せた。見覚えがある気がしたのも刹那的で、男は苦無を拾い上げ勢いよく振り下ろす。それが今の男の立ち位置だ