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「***せんせー!お願いします私に美味しい毒菓子の作り方を教えてください!」

突っ込んでくるように話しながら走ってくるくノたまに苦笑した***は、近くまで来て材料はありますと胸を張る姿に小さく息を吐き出した

「どうしても!どうしても負かしてやりたい忍たまがいるんです!!」
「また潮江文次郎六年生かしら?」
「あいつっ、わたしが上手く食べさせてもケロッとしちゃって!悔しいっ!」

それは気づかれて避けられているか解毒剤を常備しているか本当に効いていないのか。わからないがどれかしかないだろう
いや、先生方の話しに聞くに気合いで乗り切っている可能性も否定できないか。何にせよ、***には目の前にいる少し抜けたところを見せているくノたまが嘘をついていることは分かっていた
だが追求せず丁寧に指導する。成長してくれているのだ、応えないわけにはいかない

「なるほど!わかりましたありがとうございます!」

そんなやり方もあるんだと真剣に話を聞き、キラキラとした目で感謝を述べる。それで十分な***は、くノたまを見送り苦笑した

「・・・さてと。」

気合いを入れた***が向かうのは忍術学園の外。着飾るでもなく、ただ紫の簪に合うように着物をかえた***は、待ち合わせ場所である松の木の下で震える手を握る
これから会う初対面の相手に、怯えないための整理をしているのだ

「お待たせしました。」
「・・・いえ、私も今し方着いたばかりですから。お久しぶりです、土井さん。」
「ええ・・・お久しぶりです。」

忍術学園の方から歩いてきた土井と忍たまに、***は緩やかに顔から向け優しげに微笑み会釈した
そんな***をじっと見ながら、忍たまは挨拶も忘れ口を開けている。なんて間抜け面、と思ってしまうのは男児より女児のほうが比較的成熟が早く、***の生徒は皆こうではないからだろうか

「ほらきり丸、挨拶をしなさい。」
「女の人だったんすか?オレてっきり・・・えっと、きり丸です・・・よろしくお願いします。」
「ええよろしくね。」

この人も忍者なのかな?伺うようなきり丸に小首を傾げながら笑みを浮かべた***が、行きましょうと町を指差し反対側へ首を傾げた
頷いたきり丸はご姉弟ですかと土井にだけ問う。土井は即座に首を振ったが、ちなみにどちらが上かと聞いてみれば躊躇わず***に目を向けられ口を閉じた

「なんか、すごい大人っぽいっていうか、色っぽいから・・・」
「確かに私は年上だけれど、姉弟ではないわ。」
「じゃあ、友だち?」
「いいえ、シナさん経由での知り合いなだけよ。」

お酒を飲んで以来、会うのは初だ。今回の待ち合わせも机の上へメモを置く形で叶っている
如何せん土井の担当する組の出来が悪いと、山田に言われた***は大変な組を任されたのだなと苦笑したものだ

「あ、大家さん。」
「おお、お待ちしていました。いやー寂しくなりますね、この度転居ということですがご結婚ですか。」
「いえ、仕事の関係での転居です。ふふっ、孤児(みなしご)の年増を拾う御家がありますか。」
「まあないでしょうね。」

互いに笑い合う***と大家に、失礼じゃないかと思ったのはきり丸だけではない。土井こそ文句を言う勢いを最初みせたが、***に横目で見られ飲み込んだ

「こちらが土井半助さん。こちらがきり丸くん。とてもしっかりしていらっしゃるので家賃の滞りなどはないかと。」
「あなたの紹介ならね、安心ですよ。えーっと、土井さんですね。」
「はい。土井半助と申します・・・よろしくお願いいたします。」

契約の説明をしますねと話し始めた土井と大家から目をそらし、***は早く帰りたいと心の中で呟いた