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「好きになってしまったの?」

なってしまったという言葉に後ろ手に腕に爪をたてながら、***は緩やかに笑って見せる

「人として、尊敬しております。恩人でもあります。兄弟がいればこんな感じなのかなと、思うことも、ですが、あなたの仰る好意という点では有り得ません。」
「・・・まだ、怖いのかしら。」
「恐怖心を抑えることはある程度できるようになりましたが、怖いものは怖いまま。それでも、くノ一だからという思いも強いんです。」

惚れられるのは良いが惚れる訳にはいかない。そう笑う***の癖に眉を寄せ、くノ一は***の腕をつかみ引き出した

「あっ、」
「くノ一は身体が武器となるの。自分で傷をつけるなんて以ての外よ。」
「ごめ、なさい、・・・っ、あ、あの、私」
「ほら、また怯えて・・・女は大丈夫になっているだなんて嘘をつく必要なんてないでしょう?」

くノ一に捕まれているところから広がる痺れに、***は目を泳がせながら言葉を詰まらせる
男への異様な怯えに隠れた女への恐怖心を、知っているのは***を養育していたこのくノ一だけだろう。***はお願い離してと掠れながら声を発し、膝をついた

「男には拒絶を女には隷属を。駄目なのよそれでは・・・男には触れ女には抵抗をできなければ、あなたはただ人を殺し自分を傷つけるだけの凶器だわ。」
「さ、逆らえば怖いものっ、抗わなければ怖いのっ、でもあなたが言うから、」
「自分のために改善しなければならないの、誰かのためじゃ頑張りきれないでしょう?」

答えない***に、私はあなたを大切に思っていると前置きをしたくノ一は慈愛に満ちて微笑む
***は卑屈そうな笑みを浮かべて首を少しだけ傾げた

「学園長先生からね、このまま正式に忍術学園の先生にならないかって話があるの。でも私はあなたを手放したくない・・・惜しいもの、やっぱり。だから・・・自分のためが難しいのなら私のために、頑張ってみて?」
「・・・そんなに、怠けているようにみえますか?」

裏切られたかのように呟かれた言葉に固まったくノ一は、笑おうとして失敗した笑みを浮かべる***にそうじゃないのと辛うじて口にする
***は首を振り、けれど拒否を口にできずにくノ一をじっと見つめた

「申し訳ありません・・・私、疲れているみたいで・・・ちゃんと、しっかり、励みます。」
「チャミダレアミタケ城へ・・・私のところへ、戻ってくるのよ。」

自分を落ち着かせた***はわかっていますと目を伏せ、またねと頭を撫でて去っていくくノ一を見送る
あと一年。刻むように自分に言い聞かせた***の、胸は先日と同じように痛んでいた