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「組を受け持つのもそれが一年生なことも、私は仕事ならこなしてみせるさ。だがその内の一人と一緒に暮らすのはどうなんだ?その子を贔屓しないとなぜ思う私は思わない。」

正式に春からの辞令が出たことを知った***がお酒を贈り物に選んだのは、ストレスにはお酒がいいという自分判断だ
二人きりで飲むことに抵抗はないがどちらかの部屋に異性を連れ込むことには抵抗のある互いは、鐘楼の上で二人で月見酒と決めている。それが半刻前。***はただただ、おののくように気持ちを吐露し始めた土井を見ながらお酒を嗜むだけとなっていた

「決定事項だった。一分の隙も与えず私には拒否権はなかった。」
「・・・手伝えることあったら手伝うよ。例えば・・・住むとこの斡旋とか?いま契約している長屋ならご近所さんがしっかりしてて大家さんがちょっと抜けてて、二人で住むには十分な広さがあるの・・・近いし、綺麗だし。よければ、なんだけど。」
「それは・・・とても助かるが、使っているんじゃないのか?」
「いいの。」

実はねと、***は懐かしむように目を伏せ、土井にとって晴天の霹靂な言葉を口にする

「帰らないといけないから。」
「いつ・・・」
「本当は冬が終わる前に。でも、ちょうど土井先生が組を持つって聞いて、一年だけ待ってもらったんです。」

だからどうぞと、***は言葉に詰まる土井から目をそらした。土井はあーあと乾いた笑みを漏らし、目を手で隠しながら足に肘をつく

「あ、あの・・・?」
「忘れていました。***先生はずっといらっしゃるとばかり・・・」
「土井先生が入ってきたときには、すでにいましたからね。」

そろそろ戻りませんかと土井を見ずに提案する***にそうですねと立ち上がり、土井は軽やかに降りて消える好いた女の姿に崩れるように座り込んだ

「一年・・・あと一年じゃどこまでいけるかわからないじゃないか。」

話しをしてくれるようになるまで数年目を見てくれるようになるまで更に数年。土井が好意を自覚して未だ一年経たず。気を許してくれるまで少なくともあと一年は必要だと感じていた土井にとって、その時間が唐突に奪われたような錯覚を覚えた


自室へ戻った***は戸に背を預け痛みを堪える様に目を瞑ると、両手を胸に宛がい重ねる
絞られるように痛む胸にゆっくりと息を吐き出すも、虚を突かれたような土井の表情を思い出し唇を噛んだ