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「お昼は済ませましたか?」
「・・・?あっ、あ!やだもう黄昏時じゃない・・・!」

土井に声を掛けられた***は慌てて席から立ち、途端に空腹を訴え始めた胃に朝も食べてないのにと深いため息をつく
しょうがないかと、翌日朝までの絶食を決めたのだ。基本、夕食をとらず忍者食も好きではない***故の選択だ

「握り飯、いりますか?」
「・・・え、なぜそんなものを土井先生が?」
「お昼がとれそうになかったので、おばちゃんに作っておいていただいたんです。二つあるのでどうですか?」
「いえそんな、しっかり食べて英気を養って下さい。私は大丈夫ですから。」

とんでもないと首を振る***はそうですかと少し寂しげにする土井にいい淀み、いただきますと手をだした
土井は頬を緩ませ***から視線を外し、事情を知って様子を見ていた大木と目があい慌てて顔を逸らす。にやけの混じる大木の笑顔に、居心地が悪いのだ

「おばちゃん、握り飯二つ作ってもらえませんか?」
「あらいいわよ。・・・***先生の分かしら。」
「なぜ、それを・・・」
「今日はまだ一度も食堂へ来てませんからね。お二人は仲がよろしいし。」

食堂での会話を聞かれたと気づいたのは、食堂の出入り口から微かにこちらを伺っていた大木と目があってからだ。今と同じにやけた笑みで見られてみろ、と土井は思う

「おいしい、」
「もう一ついかがですか?」
「いえ・・・太ってしまうので、いりません。」

どこがだ。と真顔になった土井はうんと気をつけているのだと苦笑する***に、女人とはそういうものなのかと頷き握り飯にかぶりついた

「土井先生の分、なくなっちゃうじゃない。」

ボソッと言われた言葉に固まった土井は口にでたことを気づいていない***をじっと見て、居心地悪そうに目をうろうろさせていく様に小さく笑う。可愛い人だと、胸が熱くなる思いだ

「ありがとう、ございます。」
「いえ、困っているときはお互い様ですから。」
「・・・ふふっ、」

照れるように笑った***はありがとうと改め目を細める。一瞬だけ合った目は、事件の前と後で随分変わった
土井の感情に伴う印象の変化か、***自身の変化かはわからない

「そうだ、こういうの使ったりしますか?」
「わぁ・・・綺麗な簪ですね。飾りはないのに、艶やかで・・・贈り物ですか?」

婚姻でも結ぶのかとお祝いモードへ入る***に苦笑して、土井はあなたへと***の手に簪を置いた

「・・・私に?・・・なぜ?」
「***先生にですが・・・、理由ですか?」
「嬉しい・・・」
「日頃のお礼というか、えっと、え?受け取っていただけるんですか?」
「はい。大事に使いますね。」

髪紐を解き髪を束ね直した***が簪をさせば、高貴な色だから似合うかしらととろうとしてしまう。大丈夫ですよとそれを笑みでとめた土井が、さらりと***の前髪をよけた

「とても似合いますよ。」
「普段黒や茶が多いから、紫なんてつけるだけで緊張します。・・・大丈夫ですか?変じゃないですか?」
「似合いますよ安心してください。」
「なんだか、土井先生に言われるとそう思えてきます。」

疑り深いですねと困ったように笑う土井も簪に触れながら嬉しそうに笑う***も思いついていない。けれどにやつく大木にどうかしたのかと問いかけ成り行きを見守っていた木下は難しい顔でぼそりと呟く

「紫は独占。」
「簪を贈れば、乱したい。」
「つまり髪が乱れるほどにその身体好き(欲しいまま)にしたいということだな。」
「大胆になりましたなぁ、土井先生は。のぉ山田先生。」

話をふられた山田は呆れたように土井と***を眺め、先が思いやられると深く長い息を吐き出した