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「ご迷惑を、お掛けしました。」

深々と頭を下げた***さんは、心配したのだと抱き締めてくれるシナに目元を緩ませ涙を滲ませる
事件のあと気を失ったまま数日目を覚まさなかった***は、起きて早々シナの元へ走り開口一番謝罪したのだ

「土井先生がどちらにいらっしゃるか、ご存知ですか?」

そして二言目はこれだ、シナは異性に対し恐怖心を抱く***が自ら会いに行くという事態に首を傾げ、どうかしたのかと問う
***は首を振り、謝りたくてと口にした

「嫌な役を、やらせてしまいました・・・私が、決着をつけなければならなかったのに・・・」

怖くて出来なかったと目を伏せさせた***は、探しにいきますと職員室の方へ走っていく
その背に大丈夫かしらと首を傾げ、シナはなんとかなるだろうと微かに笑った

***が職員室を訪れたのは少し前まで***と土井が揃って勉強をしていた時間だったが、中にいたのは厚着のみでその厚着もこれから授業の準備へと向かうところのようだ

「あ、厚着先生、」
「ああ、身体は大丈夫ですか?***先生。」
「は、はい、大丈夫、ですっ、あの!土井先生をご存知ですか?」
「それなら・・・さて、先ほどまでそこで書き物を・・・」

いませんねと首を傾げた厚着に頭を下げ、***は土井の部屋まで歩く。土井先生はいらっしゃいますか?その問いに、部屋の中からは静寂が返ってくるのみ
不安そうに食堂へ向かう***の足は次第に早足に、食堂のおばちゃんにさっきまでいたのだという情報をもらいありがとうございますと頭を下げた

「***先生、そんなに急いでどうしました?」
「あっ、あ、う、あの、斜堂先生っ、」
「体調は戻りましたか?」
「う、うん、あ、はいっ、あの、ど、土井先生を、知りませんか?」
「知りませんねぇ・・・先ほど職員室で仕事に励んでいるのは見かけましたが。」
「そ、うですか、ありがとうございます。」

どうしようどうしようと逸る気持ちが***を走らせ、煙硝蔵や鍛錬場を見て回って尚見つからない姿に色をなくしていく
どこにもいないとまた土井の部屋に戻った***は、息切れをそのままにすみませんと声をかけた

「どうしました?もう身体は良いのですか?」
「や、山田先生、あ、ありがとうございました。お手数をお掛けしたとききまして、本当に、申し訳ありませんでした。」

深く頭を下げた***に当たり前のことをしただけだと笑みを浮かべた山田は、土井先生はいませんよと苦笑する
***は息を詰め、泣きそうに口元を結んだ。避けられていると、嫌でもわかるからだ

「・・・お願いが、あります。」
「なんですか?」
「土井先生が、戻られたら・・・っ、助けていただいて、ありがとうございました・・・って、不謹慎かもしれないんですけど、と、とても格好良くて、素敵で、あ、あの、最後のは伝えなくていいですありがとうございましただけで!」

失礼しましたと地面に降り塀を乗り越えていった***に、山田は静かに苦笑した