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「今日予定はあるかしら。」
「いえ・・・」
「なら、美味しいものでも食べに行きましょう。」

休日にシナからの突然のお誘いはよく発生するため、***は素直に頷き身支度をし始める。断酒をしてから、***は自分の無趣味さに休日を持て余しているのだ
華やかなシナの隣で恥ずかしくないように、***は明るい色の着物に飾りのついた簪をつけ門で待っていたシナへ駆け寄る

「相変わらず可愛らしいわね。」
「し、シナ先生はお綺麗です、とても、」
「あらありがとう。ああ、お待ちしておりました。」
「いやぁすみません。」
「遅くなりました。」

ぞわりと足元から這い上がった鳥肌に、***は涙目でシナを見つめた。シナは***に笑みを返し、土井先生と二人でいきますかと問う。もちろん、***の答えは否だ

「さあ行きましょう。」
「シナ先生ぇ、」

本当に行くんですかと涙声の***は、シナに引っ張られるように町へと駆り出された

甘味処へと連れられる***の口は道中はい、いいえ以外を発さなかったが、シナに絡められた腕をふりほどくことはしなかった
後ろを歩く山田や土井に緊張しっぱなしでも話し掛けられれば頷き振り返るような仕草もする。進歩したのねと、シナは少しだけしみじみしてしまった

甘味処では***のストレスがピークに達していたが、シナのそばから離れないながらも土井が話しかける度に少しずつ少しずつ***が砕けた喋り方になっていく
あらあらと、シナは二人きりにしましょうかと山田にアイコンタクトをとり、山田は微かに笑いながらそれに頷いた

「あ、のっ、」
「そろそろでますか?」
「は、はい、」

逃げるように席を立つ***は先に行こうとするシナの袖をつかみ、置いていかないでとシナを見上げる

「私はお土産を買うので先に店を出ていてください。」
「いや、私も妻と息子に土産を・・・明日少し帰る予定が・・・半助、先に***先生と外へ」
「いえあの、私はお勘定が、」
「なに、合格祝いに私が出しますよ。」
「私先に一人で出てますから・・・!」

嫌な予感がしたのだろう、***は山田のセリフの途中で店から飛び出しもうやだ帰りたいと震える膝に手を当てた

「***?」
「・・・え?」

心臓痛いときつく目を瞑った***は自分を呼ぶ声に顔を上げ、驚きに目を見開く。そして小さく怯えた声を発した

「お、かあ、ちゃ・・・ん?」
「やっぱり***だねっ、良かった、ずぅっと会いたかったのよ!」

さあよく顔を見せとくれ。近付いてきた女は***をそのまま老けさせたような容姿をしている。いや、歳のわりにうんと若々しく妖艶だ

「な、なんで、ここに、」

掴まれた腕は先日自分で傷つけてしまったせいで痛みがあり、頬に添えられた手は温かく優しい。***は頬を緩ませ幼い笑みを浮かべると、手を引かれることに抵抗せず、女にどこかへ連れて行かれてしまう

甘味処から出た土井は***の姿が見あたらず首を傾げ、向かいの店の店番に声をかけた

「・・・ああ、そういえばえらい別嬪さんに声かけられてたな。山吹色の小袖の女だろ?」
「その二人はどちらへ?」
「あっちだ。」

店からでてきたシナと山田に駆け寄った土井は、事情を説明し相手の女性に心当たりはと問う
山田は首を傾げ、シナはその女性の特徴をと土井の腕を強くつかんだ

「う、つくしい人だった、としか分からなくてですね、あっちの方へ行ったそうです。」
「・・・私は彼女に連絡を取ります。山田先生は学園長先生に話を。」
「半助、***先生を探しなさい。」

話が見えず戸惑う土井は消えたシナに山田を見て、一体なにが起きているのかと困惑を浮かべた

「その女性は多分***先生のご母堂でしょう。」
「え、なら探さなくても、」
「そして***先生の異性恐怖の元凶だ。学園長と私たち教師が、当時***先生の養護者から聞いた話だが。」
「養護者、って、」
「・・・土井先生、あなたは忍術学園と友好関係にある城を知っていますか?」
「はい。」
「そこのくノ一です。***先生もまた、その城のくノ一です。」

さあ早く探しますよ。背を叩かれ、土井は躊躇いながらも確かに頷いた