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「・・・どうですか?」
「良いと、思います。」

黒板を前に術の解説に取り組んでいる土井は、一つの授業時間をいっぱい分使い***相手に授業を行っていた。月の光で移ろう影にそわそわとチョークを置く土井に、***は黒板を見たまま頷く

「明日試験なんだ、本当に大丈夫ですか?」
「・・・う、ん・・・あの、じゃあ一つだけ、」

黒板の前に立ちチョークを手に、カツカツと朱書きしていった。白に白だが、字の癖が違いすぎるためよくわかる

「こんな風にすると、もっと分かりやすい、かなって。どう、ですか?」
「成る程・・・ではここをこうは?」
「うん・・・いいかな、」

真剣な姿の土井を眩しく感じながら、***の身体は震えと闘っていた。明日ある試験に受かれば晴れて正規の雇用となるらしいのだ、落ちることは許されない試験だろう
だから、***はぐっと後ろ手に、腕に爪を突き立てながらも逃げを拒むのだ

「受かったら、お祝いしますね。」
「・・・***先生がですか?」
「くノたま教室で、です。」
「そ、それは嫌だ・・・!あぁっ、違う、嫌じゃなくて、ただ、彼女たちの罠はえげつないから、」
「え、私の生徒たちになにか苦情が・・・?」
「うっ、」

大切な大切な私の生徒たち。そう落ち込む***にぐぅと唸った土井は、苦渋を飲み込む。そしてしっかり***をみれば、***は先程とは異なる、ある種覚悟の気配に小さく笑っていた

「笑、笑わないでくださいよ!」
「いいえ、私は笑っていません。まあ、お祝いはシナ先生を通じて。」
「くノたまはかませないでくださいね?・・・?***先生からではなく山本シナ先生からですか?」
「土井先生はきっと受かります。そうしたら、指導係は不要ですから。」

そうそれだ。明日で解放されるからこそ、今この時間を耐えられる。盲点だったとばかりに目を見開く土井は、そうですねを飲み込んでパンと手をたたいた
土井の方を向いた***は、頭を下げる姿に半歩前へ足を出す。戸惑うように口をあけながら

「半年間、ありがとうございました。」
「いえっ、あ、あの、」
「受かれば***先生のお陰です。お礼を、させてください。」
「合格通知が、お礼になりま」
「団子でも食べにいきませんか?もちろん私もちで。あっ!」

いやだと首を振りながら逃げてしまった***に、土井は距離感を謝ったと頭を抱えた


翌日無事に試験を通過した土井は喜んでくれる山田に協力を願い出た