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「・・・大丈夫ですか?」
「っ、はい、」

泣きそうな顔で頷かれ、ならよかったと言えるだろうか。***と土井がいる場所は職員室だが、先生方は二人を残し授業に駆り出されている。二人きりなど、***の精神が保ちそうにない

「あっ、」
「え?」
「ぅ・・・うぅん、」

どうしようかと悩んでいるような***はそれは難しすぎるかもともごもご伝える。それ、と示された紙には算数の試験が記載されていて、一年生向けにと試しに作ることを課題にされているものだ
土井は首を傾げながらも、忍たまの友を見直し始める。言われてみればと、頷きはするがまた首を傾げた

「十で習うなら、もっと難しくてもいいくらいだが。」
「うんと・・・」

キョロキョロと動く目が土井の足元へ固定され、目は伏せられる

「あなた、良いとこのお坊ちゃんだったでしょ。」
「・・・」
「学のない親を持ったり学べない環境だったり、理由は様々だけど、ここには学ぶ機会が初めて与えられた子も学んできた子と同じ様に入学する。だから、だから、最初の試験は忍たまの友に乗っ取らなければならない。自信をつけさせてあげて、学年末に向けて授業内容も試験も、充実させていくの。じゃないと、学ぶことが嫌になってしまうから。わ、たしも、まだ改善することは沢山あるし、でも、そのっ、」
「よく喋るな。」
「・・・ッ!」
「話は解った。確かに、考えがいたらなかったようだ。・・・ありがとう、改めるよ。」
「ヒッ・・・!!」
「良いとこのお坊ちゃん、だった、か。」

床が軋む。わざとだろう、足から這い上がる震えで席に縛り付けられる***は向かいから歩いてくる土井からひたすら顔を逸らした。一際軋んだ音が隣で鳴れば、***は頭を抱えるように耳を塞ぐ

「咎めたわけではなく・・・その、なぜ、そう思ったのか教えていただきたい。」
「しっ、仕草が、あの、所作に品があるからっ、」
「だった、の理由は?」
「辛い、ことが・・・っ、た、人は、未来を、描くから、」

初めて会った時、あなたが描いていたから。そう消えていく声で答えた***は、離れてお願いと力の入らぬ手で這うように土井から離れた

「描く、とは?」
「こうであったはず、の、未来を・・・思い出して、ること、」

ごめんなさいと呻いて、***は深く頭を下げる。普段シナと行動している***は、悟らせないシナのお陰で口を滑らすことがなかったのだ
ムキになりすぎたと悔いた土井が膝立ちから一歩出れば、***は身体を丸めるように尻餅をつき、腕を顔の前で重ね震え上がる

「すまない、脅かす気はなかったんだ。」
「ッさわら、な、」
「言い当てられた気がして、焦ってしまったんだ。本当に申し訳ない。」

腕をどければ、真っ赤に充血した目が前髪の影で隠されていた。自分の足先を見たまま動かない***にもう一度謝った土井は、私が怖いかと心底詫びる気持ちで問い掛ける
頷く***はゆっくりと離れる土井に安堵し、でもと更に詫びようとする土井の言葉を遮った

「ありがとう、ございます・・・、」
「え?」
「失礼な、態度だとは、わかってます。でもっ、こ、怖いものは、怖い、」

今日はもう戻りますと涙を堪えたまま書類を乱雑に束ねる***をみて、土井の手が懐紙を差し出す。それをじっとみながら、***はきゅっと唇を結んだ

「教えてもらえるなら、怖くない範囲で接します。異性が怖いというあなたが私の指導係になったのも何かの縁です。克服のお手伝いもしますよ。」