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「せんせ〜お願いしますぅ今日用事があってー。」

お願いと手をあわせるくノたまに小さく笑った***は、わかりましたと外出許可証を手渡す。どうやらシナには言いにくい理由らしい

「シナ先生には私から言っておきますので、どうぞ町の男とでも忍たまとでも逢い引きしてらっしゃい。」
「やだもう先生なんだって知ってて私恥ずかしい!」
「沢山巻き上げてきなさいね。」
「は〜い!」

あれから断酒をしすっかり血色の良い健康的な肌を取り戻した***に、内面の変化も確かにみられた
人が見れば誤差だろうが、***や見守ってきた先生方に取ってみれば進歩。会話というには足りないまでも、言葉を交わせるまでになったのだ。これには***を養育していたチャミダレアミタケ城のくノ一も大喜びである

「***先生、授業でわからないところがあるのですが・・・」
「今日習った兵学の・・・」

頼られることも多くなり、***自身自分の成長を感じていた。変わらず城勤めやフリーのくノ一を希望するくノたまのためになる授業しか行っていないが

桜の散り始めた春。新しく入学したくノたま一年生の顔と名前を覚え、くノたま一年生からも覚えられた頃、***は新しく山田伝蔵の推薦で教師仲間が一人増えたのだとシナから教えられていた
だが異性との関わりに非積極的な***がそれが誰かと知る機会はなく、忍たま一年生の名簿を手に今日も今日とて人気を避け廊下を歩く

「忍たまは相変わらず多いのね。」

今年で二一となる***は年増といわれる齢だ。本人にその気はないながらも早く嫁がないのかとお節介を発揮する事務員から借りた新入生名簿は、そんなお節介を受けても覚えなければならない必須書類である
曰わく、教師が生徒の顔と名前が一致しないなどあってはならないという、***の偏見だ

「おばちゃん、います?」
「ああ***先生、名簿かい?」
「はい。返却にきました、いつもありがとうございます。」
「いいんだよぉ。それより、いい縁談の相手が見つかったから、ほら、この人はどうだい?」

お品書きのような履歴書を渡された***は事務室の出入り口へにじり寄りながら苦笑する
経歴も職も悪くないが、いかんせん相手は男。***には果てしなく高いハードルだ

「私のような年増にはもったいないですよ。」
「一度会えばすっかり気に入るさ。ね、お見合いどうだい?顔もこの釣書で良しなんだ、こんな良物件なかなかないよ?」
「いいんです。私は独り身でと決めていますから。」

それじゃと踵を返し事務室から逃げる***は持ってきちゃったと釣書を抱きしめ、どこかで燃やそうかときょろりと場所を探す
流石に失礼すぎるからあとで返そうと釣書に向いた顔がふと落ちた影に上がる間もなく、ちょうど角を曲がったところで誰かとぶつかりかけた

「あ、すみません。」
「こちらこそ・・・ああ、あなたは、」

声に釣書から目を離しその誰かを見上げた***は、そのまま数歩後退さりをして思わず釣書をくしゃりと握ってしまう

「なん、で・・・?」
「その装束、忍術学園の先生だったんですね。」
「っ、は、はい、あ、なた・・・も?」

でも、新学期始まるまではいなかった。確かな記憶に数歩更に後退りをする***に、申し遅れましたねと優しげな微笑みが向けられた。もちろん、***は顔を見れていなければ事態を飲み込めもしていない

「山田さ・・・山田先生の紹介で春から忍術学園の先生になった土井半助です。どうぞよろしくお願いしますね、先輩。」
「ひっ、う、うぁ・・・い、やっ、」

無理、よろしくしない、と首を降り廊下から降り屋根へと消えた***に、土井は私なにもしてないよなと挨拶を反芻しながら首を傾げた