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「***先生、どちらへ?」
「し、シナ先生、」

ぴゃっとハネた肩は細く、顔色は悪い。目隈でうんと歳をとっているようにみえた
シナは苦笑し、程々にねと***の頭を撫でる。***は痛そうに顔を歪め、ごめんなさいと泣き声で門から外へと飛び出した
香る酒気に、シナはため息をつきながら首を振る。わかっているのだ、***がお酒に頼り日々を過ごしている事実を

***が遠くの町まで出掛け、自分を誰も知らないところでお酒を飲み始めたのはお昼を過ぎてからだった。店員は女が一人お酒だけを胃に注ぐ光景に閉口し、店主が止めに入るまでに約二刻を要したが***の欲求は止まらない
覚束ない足取りで店を出た***はぐしぐしと目を擦り、そして酒屋を前に財布を確認した

「・・・いいよね。」

そっと店内を確認すれば、席を外しているのか奥にいるのか?店番の女の子が一人立っている。チャンスだなと店内に足を踏み入れ店番に声をかけた***が要求したのは、酒甕だ。いくらなんでもやりすぎだろう

「こちらを、ですか?」
「無理なら酒壺でもいいの。お金はあるわ。」

口角を上げた***は、緩やかに首を傾げお願いと請うた。対人恐怖があろうが酔っていようが、***だってくノ一である

「私を、助けるためだと思って・・・ね?」
「っ、は、はい、では、」

ほんのりと顔を赤らめた店番にありがとうと微笑み、***は店主が戻る前に酒壺を買うことができた。気分はすこぶる良い
よいしょと酒壷を抱え直した***の足取りは軽く、周りの目も気にならないほどに安堵に満ちていた

「これで・・・」

明日からも頑張れる。そう意気込んで街道へ進む***に油断があったのは確かだ。けれど酒壷を抱え覚束ない足取りの怪しい女に普通誰が声をかけようか、不意に呼びかける声とともにつかまれた肩から悪寒が一気に***の身体を駆け巡る

「ッ、」
「あの、大丈夫ですか?よろしければ途中まででもお運び」

息を飲んだ音を聞いた男はガシャンと派手に割れ鳴いた酒壷に驚き、意識を失い倒れる***を抱き止めた

「ちょ、えっ?あの、大丈夫ですか!?」