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「また一年・・・どうして、ちっともよくならないの?」

泣きそうだと静かに落ち込んでいた***は、久しぶりねと声をかけられ顔をあげる。そこには、***を拾い育てそして忍術学園へ放り込んだ先輩くノ一がいた。***は慌てて鬱々とした顔に明るさを映し出す

「あら憎らしい。もっと素直になさい。」

むにっと頬をつままれた***は眉を下げ、連れて帰ってくれないだろうかと先輩を見上げた
けれどデコピンをされ額をおさえて、***の涙目が呆れとともに吐き出されるため息にさ迷う

「触れなければ、意識を失うことはなくなったそうね。」
「で、ですか、声をかけされたりぶつかったり、私、どうしてもダメで、挨拶も、できなくて・・・」
「帰りたい?」
「っ、なおらない、です、」

置いて帰らないでと伸ばした手はつかまれ、いい?と下へ戻された。***は床をみたまま、大人しく小さく頷く

「世の半数があなたの怖がる男よ。寝れるようにと言っているわけではないの、せめて世間話程度はこなせるようになりなさい。」
「・・・って、こわい、」
「恐怖を抱くなとはいわないわ。でも、勝ちなさい。」

頑張りなさいと肩を叩かれ、***は視界が暗転しそうな気配に唇を噛んだ。そして学園長の庵のほうへ消えた先輩を振り返り、頑張りますと小さく小さく吐き出した

その夜初めて、***は寝付けず忍術学園を抜け出した。今までは自主練で紛れていた気も、一生チャミダレアミタケ城へは戻れないのだと思うと到底紛れるものではなくなってしまう
***は宛てもなく歩き彷徨い、そして噎せ返るような酒と熱気に賭場の前で足を止めた

「あらあんたもやるの?」
「いえ・・・あの、こちらは今何を?」
「賭け事よ。」
「この、頭がくらりとするニオイは?」

ニオイ?と首を傾げるもすぐに待ってなさいと店に入っていった女は、すぐに一升瓶を一つ持って再び店から出てくる
不思議そうにする***は、女に言われるがまま銭を払い、一升瓶を腕に抱かされて来た道に身体を向けられた

「え、あの、」
「お酒よ。安いけど口当たりも酔い方も悪くないものだからこんな夜に飲みなさいな。」
「意味が、」
「酔えば嫌なことは全部なかったことになるわ。それでも足りなくなったらまたいらっしゃい。うちは女も銭さえあれば大歓迎の賭場だからね、次は参加するといいわ。」

ちょっと待ってわからないからと伸ばした手に触れた女の指は細く、***は驚いたまま女の妖艶な笑みに文句をすべて飲まされる
仕方なく一升瓶を抱えて帰った***は自室でしばらく一升瓶と睨めっこをしていたが、遂に意を決して蓋を開け広がるニオイを胸一杯に吸い込んだ

「・・・なんか、変な感じ。」

くらりとめまいがしたが、***は構わず嫌なことすべてを払拭する期待を込め一升瓶に直に口づけ中身を呷る
喉がピリリと痛み鼻に染みるアルコールによって、***の目からは涙がこぼれた。だがすぐに思考は鈍化し、酔いが回って気を失うように床に転がり眠りへと意識を落とす

「全部、忘れて・・・」

確かな高揚感は***をまた酒へと誘い、半ば押しつけられるように買った一升瓶が空になる頃には新しい一升瓶が部屋へ一つ増えることへ躊躇いなくなっていた