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「くノたまの友五頁を開いて下さい。」

五年に上がったばかりのくノたまたちは教育実習生だという***を不安そうに見ながらも、指示通りに教科書を開く

「兵術について学習しましょう。昨年は兵学を学習したと聞きましたので。戦略的勝利や戦術的勝利について、机上の理論で組み立てることは皆さんもう可能ですね?」

はい!揃う返事に微笑みを浮かべ、***はパンとくノたまの友を閉じて外へ出ましょうと戸を開けた
驚き戸惑うくノたまたちは、今は座学の時間ではと首を傾げる

「シナ先生に許可をいただき、実技の時間をお借りしました。察しの良い方はお気づきですね?はい。本日の授業は兵学に基づいた演習を行います。」

皆さんの実力を私に教えて下さいね。そう笑う***はクラスの半数にわたるくノたまの名前を上げた。名簿を見ずに間違うことなく

裏で見ていたシナは大丈夫そうねとホッと息をつき、報告をと学園長の庵まで足を運んだ

忍とはいえくノ一のその卵。下級生で教養を習い上級生に入ってから始まったくノ一修行は、教育実習生であり現役くノ一である***の手でより実戦を意識したものになっていた
シナを初めとする教職員のように、生徒の安全を第一に考えないせいである。***には教育者というより指導者という意識しかないのだから

「新しい先生ってさ、どのくらいいるのかな?」
「教育実習なんでしょ?ひと月くらいかなぁ?」
「忍たまには先生のこと話しちゃいけないんでしょう?」

評判は上々だが、態度が冷たい授業がキツいとボヤく者もではじめる。ひと月経つ頃には、***の授業に進んで参加するくノたまは城勤めを意識するくノ一の卵だけになっていた

「シナ先生。試験内容についてご相談が。」

それの良し悪しはさて置き、シナには***に積極性が芽生えたのは喜ばしく思える。***もまた、シナにとっては生徒なのだ

「兵学に兵術を混ぜ兵法を完全とした問題を作ることは可能です。ですが、兵術はまだ教える半ば・・・兵法を考えた試験内容の作成は、まだ生徒には難易度が高すぎるかと思います。ですので今まで教えた範囲で試験内容を考えているのですが・・・」

一所懸命に取り組む姿に好感を持つ先生は多い。近づけはしないが、皆プロの忍者だ。戦忍として活躍していた先生もいる中で、***は***が気づかない内に周りに見られていた

「最近、いかがですか?」

質疑応答が終わると素早く立ち上がった***は、引き止められ座り直す。そしてシナの問いに少しだけ顔を伏せた

「・・・遠くに忍たまを見るだけで、胸が苦しく頭の痛みも、でてきます。男装は一切問題ないのですが、女装は案の定・・・中身が男とわかってしまうのです、どれほど完璧な女装であれ。」

恐怖に近いが恐怖だけで片付けられない痛みに、***は深く頭を下げる
首を傾げたシナは、頭をあげてと苦笑しゆっくりで構わないのだと震える手を握り安心させるように言い聞かせた

「簡単に直るものでしたらいくら親しいとはいえ忍術学園に大切なくノ一を預けたいなどしません。それは易く直るものでも張りぼての強さで賄えるものでもありません。ゆっくり直していきなさい。それを、あなたを連れてきた方は望んでおられましたよ。」

早くしないとと逸る気持ちがより頑なに***を縛っているようにしか見えないのだというシナに、***はただただ俯いて力なく首を振っただけだった