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「そんなに擦っては皮膚が破けますよ。」
「っ、あ、え?あ、だれ?あ!ちがっ、わたしじゃない!わたしじゃないの!」

べたべたと濡れる汚れを川に身を投げ流していた***は、茶色の忍び装束に身を包むくノ一に顔を向け逃げるように川を渡っていく
川から上がった***の姿は一言でいえばみすぼらしく、述べるなら端切れを着た枯れ枝といったところか。その姿で刀を手にしていれば異様としか表しようがない

「行くところがないのなら私についてきなさい。」
「・・・なんで、」
「どこか宛てがあるの?」
「ない・・・けど、」
「やりたいことは?」
「・・・ない、」
「なら来なさい。」

バシャバシャと川を戻ってきた***の手を引き、くノ一はよしよしと傷みのひどい髪を撫でた



暖かく野花が美味しいのが春だと知り、肌に張り付く雨を鮮やかな花が迎えるのが梅雨だと学んだ。照りつく熱が雷雲を招く夏が過ぎれば葉が色づく稲穂が秋だと教わった。白い雪原が静寂を生み出す冬を巡り、***は生まれて初めて四季を体感した。



緊張でガチガチに固まる***は、目の前にだされたお茶から目だけを隣に座る先輩に向ける。頑張れ!と励まされている気はしなくない***に、平常心は欠片も残されていない
先輩と学園長の間を行き交う言葉が自分の今後を左右し、ここで断らなければ悲惨な生活が待っているとも知りながら、***の喉は声など到底発せない状態だ

「今にも死にそうじゃのう。」
「ですので、この度はお願いを。」
「うむ。チャミダレアミタケ城城主の依頼とあらば受け入れよう。」
「ありがとうございます。・・・***、話聞いていたの?」
「はっ、はいっ!だいじょいぶですがんばります!」

ダメじゃないと深く息を吐いた先輩にでも大丈夫だからとしか言わない***は、学園長に呼ばれふっと意識を手放した

「この子は本当にっ、申し訳ありません大川殿。」
「よいよい。時間をかけて、治すとしよう。」

拾われて五年。***にとってそれは転機であり、望まぬ発展であった