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「平和だ。」
「え、そう?」

毎年恒例一年お疲れ様会は、例年通り幸隆の一人勝ち酒飲み会と化していた。酔いつぶれた面々を眺めながら、***はブリ大根を口に運ぶ
惨状を見ながら首を傾げていた斉藤も、まあいつも通りたから平和かと時計を確認した。そろそろ年を越す

「蕎麦おかわりもらう?まだあるかな?」
「十割蕎麦のお店ってうたってる居酒屋だからあるでしょ。すいませーん。」

僕二枚とピースを作る斉藤に笑った***は、よく食べますねと四人前の蕎麦を追加注文する。そういう***も大概、暴食気味である

「あれから帰ってないの?」
「いや、着替えを取りに帰ってる。」
「不破くん、何かいってる?」
「時間割の違いで会ってない。オトモダチも、接触してこないしようやく元に戻った。」

このまま***が雷蔵と関わらなければいいと、斉藤は思う。だが嫌な予感がしていた

「今日はどうする?」
「初詣行きません?」

ヴヴヴと揺れたスマホを取り出した***はあれ?とでもいうように首を傾げ、帰らなきゃだめみたいだとちょうど斉藤に断りを入れ電話をかけながら店をでる

「もしもし?父さんどうしたの?」
『明けましてはおめでとう、***。』
「え?ああ、明けましておめでとうございます。なんだ挨拶か、驚かさないでよ。」
『なんだ、緊急かと思ったのか?悪かったな、お母さんに替わるから。』

***?聞こえた声はか細く、***は心配そうにそうだよ母さんと目を瞑った。ほっと、電話越しに安堵が感じ取れる
***は身体は大丈夫かお金は足りているかと問う声に疲れた声だなと感じながらも、なんの心配もいらないと母親を落ち着かせた

『・・・雷蔵を、籍から抜こうと思うの。』
「どうしていきなりそんな話に?」
『前・・・うんと前、よ?そんな、最近じゃないの。ただ、雷蔵にそっくりな・・・何君だったかしら?その子と雷蔵が話しているのを聞いてから、私はもうあの子を愛せないの。』

黙って聞く***に、母親は壊れたCDのように音をとばし声を歪ませ話し続ける。すぐに電話口は父親へかわり、***は母さんどうしたのと尋ねた

『雷蔵はお祖父さんを嫌っていたからね、近寄りたくないと話しているのを聞いたことがあるそうだ。・・・この前の電話のあといきなり話しだして、このままでは雷蔵にひどいことを言ってしまうから離れたいと訴えだしたんだ。もう、電話越しでもダメらしい。』

父が望む息子との最期が叶わなかった、最後の願いが叶えてあげられなかった。それを長年気にしていたのだという父親になんで今更と***は問う

『夢にお祖父さんが出てきたそうだ・・・。私から雷蔵には言う。だから、お母さんに病院を勧めてくれないか。』
「病院?」
『上手く言えないが・・・正気に見えないんだ。お祖父さんがお祖父さんがと、恨み言が聞こえると連日・・・私が言っても納得しなくてな。』
「いいよ・・・明日、というか今日帰るから。大丈夫、少し疲れているだけだよ。」
『お願いな、***。・・・***が家についたら私はそちらへ行く。流石に電話じゃ可哀想だからな。』

それじゃと電話をきって、***は夜空を見上げた。父親が昔から訳の分からないことを言う雷蔵を厭う気持ちをわかっていたし、母親も距離を置いていたことも知っていたのだ、満を持してといえばそうなのだろう

「・・・大丈夫?」
「ええ。ただ、あれですね。」

様子を見にきた斉藤に、あいつは厄そのものだと***はただ笑った