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僕未成年なのでと緑茶の炭酸割りを頼んだ***は、左右をがっちり固める他学年の女学生に気安く触れ軽い言葉を滑らせる
営業スマイルを忘れずおしゃべりに興じる姿に、斉藤はお客さんになってくれるかなと女学生の反応を盗み見た

「そう?ならそうしよっかなぁ、ねぇ***くんがやってくれる?」
「僕みたいな駆け出しがやってもいいの?」
「あたしも***くん希望!」
「私はタカ丸さんかなぁ。」
「遅れてごめん!」

え、僕?首を傾げた斉藤は遮るような声に振り向き、そして思わず***を凝視してしまう
視線に気づいた***は斉藤をみたあとおっせーよと肩を叩かれている遅刻者に目を向け、なんでもないように女学生たちと絡みだした

「鉢屋はまだかよ。」
「三郎ねーもう来ると思うんだけど。ねえ、ここいい?」
「やだもぅ勘ちゃん、私せっかく***くんの隣なのよ?」
「えーいーじゃん今度付き合うからさ。」

しょうがないなぁとあっさり退いた女学生に代わり、尾浜が***の横へつく。***は男か女なら女の方がまだ諸々我慢できるのにと揚げ物に手を出した

「唐揚げ好き?俺竜田揚げとかささみフリッターとかさ、鶏肉を油で揚げたやつ結構好きなんだよね。」
「あまり脂っこいもの食べると肌荒れるから、たまにしか食べないかな。だから、好きでも嫌いでもないよ。」
「わ、雷蔵そっくりな喋り方だね、やっぱり。」

尾浜くん何がしたいのと慌てた斉藤は、ブルルと震えたスマホを確認して救いだとばかりに大袈裟に立ち上がる
どうしたと自分を見てくる***にお父さんからメッセージがといいかけ、その斉藤の声は周りにかき消された

「そういえばさぁ、***くん不破くんと双子なんだっけ?」
「なにそれ初耳!ほんとなの?やだ顔全く違うのに。」
「たしかにー・・・あ、でも尾浜くんの言うとおり口調そっくり!」

ゴシップに目がない女学生たちの興味の目ににこりと笑みを浮かべ、***は実はねと俯き加減で哀愁を漂わせる。斉藤と揃いのピアスが揺れ、耳に触った髪がそれを隠した

「内緒に、していてほしいんだけど・・・君たちには、教えてもいい・・・かな、って。」
「えっ、なになに?」
「うちら誰にも言わないよ!」

悲しげな笑みに変えた***に、斉藤は一度浮かした腰を落とす。どう考えても、***に任せたほうが良さそうだからだ
雷蔵とは似ても似つかないが、雷蔵とは別種類の顔の良さはある。***はあははと乾いた声を零して、力なく首を傾げた

「ら・・・ううん彼、は・・・僕が嫌いなんだ。小学生のときからかな?僕の目をみて話したりしないし、本当に必要なことがあっても言葉少なくて、僕を拒むんだ。だから、家族っていうのは内緒にしていたい。大学では赤の他人として、接さないことが普通のままでいたいんだ。」

そんな人に見えないのに。***くんかわいそう。これ絶対内緒にするね!口々に***をフォローする女学生に、***はありがとうとほっと力を抜いた笑みを見せる
尾浜はしまったとばかりに口を開くが、それは***の疲れたようなため息にかき消された

「せっかく僕に興味をもってくれたのに、ごめんね。・・・僕、今日はこれで帰るね。お金はどうすればいいかな?」

寂しげな笑みに***と斉藤二人を誘った同級生は立ち上がり、嫌な思いさせてごめんなと***に近づく
***は力なく首を振り、斉藤に振り向いてことりと首を傾げた

「タカ丸さん、お酒入っちゃった?」
「ううんまだ。」

この後ハサミを握るつもりでいたのだから当たり前だ。斉藤は僕も失礼するねと改めて立ち上がり、***と共に店を出る
駐車場まであの人はかわいかったあの人はセンスがよかったと傍目に機嫌良さそうに話しかけてくる***へ、僕はあの子の髪色が化粧がと話にのった斉藤はヘルメットを投げ渡され数秒躊躇った。けれどすぐに後ろに跨がり、店に行こうと***に見せるようにスマホを差し出す
画面に浮かぶメッセージに、***の目が細まった

「イライラしてるね。」

ため息をついた***はアクセルを踏み、店へとバイクを走らせる。背につかまりながら、斉藤は溝は深いねと小さく呟いた