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衝突の話はあっという間に広がった。けれど誰も、鬼の子に近づいたりはしない
事情を知る先生方と事情を知らぬ生徒たちの間での妥協点だろうか、鬼の子は学園長の提案をすんなり飲み年度途中で異例の昇級を果たす
藤色の衣装のまま深緑に混ざる鬼の子と周りとの力の差は歴然で、そしてもう鬼の子は遠慮も配慮もしなかった

鬼の子はそのまま鬼である。里の人間に頼られ崇め奉られる、神に等しい鬼なのだ
喜怒哀楽はあれど、人間と同じ価値観など持たない。鬼の子にとって守る人間かそうでないかだけがあるのみ

鬼の子は、忍術学園に在籍する人間を外敵と認識した。ただそれだけのことが、理解できないのが人間だ

亀裂は修復されることはなく、鬼の子は六年生の卒業と同時に白を肩に振り向くことなく忍術学園を後にした。鬼の子は、忍術学園を出てすぐ消息を絶ってしまったのだ

雷蔵は探した。忍術学園を飛び出し故郷へと走り、最初に遭った山の中へと
けれど見つかるはずもないのを理解したのは、山の奥へは決して行けないと歩き続けて日が暮れてから

「***・・・!」

奥に一歩踏み入れた瞬間、全身ぬるま湯に浸かったような温かさが覆う。そして山の入り口に戻されているのだ、最早人が何をしたところで抗えはしない
名を呼び叫んだ雷蔵は懺悔し許しを請うたが、それに反応する者はいない
何があったのかと心配する家族に泣きながら打ち明けた雷蔵は家から出され、故郷の土を踏むことを禁じられる
里では鬼の存在を崇めている。小さな里が誰からも踏みにじられることなく至るのは、それに鬼が応えてきたからだと疑わない。事実、そうなのだから

「雷蔵、お前は山へ入れなかったと言ったな。」
「は、はい、」
「あの山へは私も家内も入れる。つまり、お前は余所者として弾かれたということだ。」
「出て行きなさい、雷蔵。ここはもうあなたにとって安全ではないの。鬼様の加護がなければ、この里は辛く厳しい環境よ。私は母です。雷蔵、あなたが可愛いわ。外の世界で生きなさい。」

優しく強く拒絶をされ、雷蔵は足元が崩れるような錯覚に陥る。自分のせいだとわかりながらもどうしたって涙は溢れ、僕はいらない子なのかと親を責めてしまう
母親は顔を歪め、父親はわかりなさいと険しい顔を雷蔵へと向けた

「雪が深く厳しい冬、川が干上がる厳しい夏。だが作物は育ち耐え凌げるのは鬼神様(おにがみさま)のお陰だ。雷蔵、仲良くしなさいと教えたはずだ。それを破ったお前は、厳しい四季から逃れられず早いうちに病にかかり絶えるだろう。ここへ迷い込み鬼神様を否定した幾人もの余所者のように。」
「死ぬことがわかっているここにいさせるくらいなら、お願い雷蔵、遠く離れても生きて頂戴。」

泣く両親に背を押され、雷蔵はやりきれない想いで山を降る。自分の行いが導いた結果を時間を戻せたなら幼い自分に教えてやりたいと後悔しきりながら


里の平和は変わらずも鬼を見たという話は細々と続くも、様々な時代を経て次第に迷信へと変わっていく
そのうち新しく生まれた子が外へでて言うのだ、「そういえば、おばあちゃんが小さいときにあった話らしいんだけど、私の故郷に鬼でるんだって。」…なんて