12 * 
「ま、間に合った・・・」
「い、さく?」

寸鉄を握る伊作の手から滴る血は、***の首や着物に寸鉄を伝ってぽたぽたと落ちていく
勢いよく振り下ろされた寸鉄を握って止めるという荒技の際に掌や指を深く切って尚、その手はゆるまず呆然とする兵助の鳩尾を蹴り上げた伊作は、大丈夫?と***を縛る縄を切ると起き上がった兵助に顔だけを向けた

「冷静になれって、僕言ったよね?久々知。」
「先輩は***に好かれてるからそう余裕でいられるんです。」
「関係ないよ。***の立場になって考えれば、こんな強行できなかったはずだから。」
「***が俺から離れていくのが悪い。***が俺を拒否するから、先輩とばかり親しくするから、だから、俺はもう、***を愛してるとわかってもらうしかなかったのだ。」

なんでわからないのかと瞳孔の開いた目で自分をみてくる兵助に、***はもう無理、こんなとこいれないと伊作の背をつかみながら吐き出す
だからまだ早かったんだと目を伏せた伊作は殺気だつ久々知から***を隠すように手をひくと、どこまででも追って愛を伝えるのだという兵助に怯えて声すら出せずに泣く***の着物を整えさせながら、そんなこと僕がさせるわけないでしょと笑った

まだ震える身体を抱き締めながら、***は時々立ち止まり吐き気を堪える
何も言葉にならず泣くばかりの***に、伊作はある人に話をしてあるんだとその背を撫で、一気にやつれた***を立ち上がらせた
***が連れて行かれたのは最初に目を覚ました保健室で、大男と小さい子どもが遊ぶシーンにえ?と固まる

「雑渡さん、この子が***です。」
「はじめして。伊作くんから君の身柄の保護をお願いされてるんだ。」
「あ、まだ***には何も伝えてないんです。」

ふぅん・・・で、なにができるの?そう首を傾げる雑渡に皮膚移植しないんですかと思わず口にした***は、雑渡さんが引き取ってくれるってよと笑う伊作にこの人が?と首を傾げた

「伊作くんがうちにくるなら安いものかな。」
「ありがとうございます、感謝します。」

手をひかれて伊作から引き剥がされた***は悪くない顔だねと目を細められ、怯えながら雑渡を見上げる

「伊作くんは卒業後うちにくることをのんだ。君は、私になにをくれる?」
「っ、な、なにって、な、にが、僕、僕は・・・い、伊作っ、どういう、僕、」
「ごめんね黙って話を進めて。でも、君は***じゃない。君はここの何も知らない弱い存在だ。雑渡さんに君が渡せるものなんて多分なにもない。だから、酷かもしれないけど、誓ってほしい。なにがあろうとこの人に忠義を捧げると。」

キチガイに刺し殺され別の時代の別人に頭の中だけ組み込まれ、そして男に惚れられ襲われた。それだけでいっぱいいっぱいだというのに、唯一の味方から告げられたのは人生をまるっと預ける賭事。それでもあの女から、あの女に殺される恐怖から逃げられるならと、***は誓いますとはっきり雑渡を見つめた

「じゃあ***くん、ヨロシクね。」