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うわぁああ!?そんな情けない声をあげて泥まみれになりながら穴へと落ちた僕は、そういえば夜中雨ふってたなと無事な着物の一部で顔についた泥を拭う
穴から這い出るプロだという伊作に教わったやり方でのぼろうとすれば、指が土に埋まり思わず手を離した

「気持ち悪っ。」

まあいいやのぼろうと再度のぼりはじめてよいしょと穴から這い出てシャワー浴びたいとうなだれる
最悪だこれと上衣を脱いで井戸に向かい、冷たいんだよなと思い出し鳥肌の状態で水をかぶった
ちべてーっと叫び寒い寒いと自室へダッシュしようとした腕がつかまれ、思い切り振り返ったはいいけど誰だっけと一瞬詰まる

「ら、雷蔵、」
「違う。鉢屋三郎だ。」

間違えた!と焦りながら謝罪をすれば、別に構わないとそっけなく返された
気を取り直してどうかしたかと問うと、三郎は何があったんだと腕をつかむ手に力を込める
びくっと震えて三郎を伺った僕は、僕が別人だとバレたのかと気が気ではない

「兵助と何かあったのか。」
「な、にも?多分、ない。」
「あんだけ常に共にいたのに、忍務後から兵助と***が話しているとこすらみない。」

多分、多分僕の見間違いだと思う。だから、三郎、

「雷蔵ではなくこの顔でいれば僕の目が幸せと言い切ったお前が、なぜ兵助を避ける。」

一瞬で顔を変えたのは、きっと、対した理由はない
だから、早く元に

ひゅぅひゅぅと喉が鳴り、つかまれた腕が痒くなる。指先まで蕁麻疹が出て、人混みのニオイが鼻についた

「・・・おい、大丈夫か?」

パッと雷蔵と同じ顔になった三郎に肩をつかまれ揺さぶられ、僕は目の前が真っ暗になるのを感じる
伊作、伊作はどこ、助けて。地面に膝をついてぎりぎり声になるかならないかで伊作を呼んだって、伊作は正義の味方系超人じゃないから当然こない
でも、息が速くなって涙を流す僕に善法寺伊作先輩がどうした呼ぶか見たいのかと焦ったような三郎が伊作になって、僕はその両腕をつかみ返して苦しいと吐き捨てるように顔を見上げた

「い、さくっ、伊作っ、いさ、苦しっ、」

目の前がチカチカして頭が痛い。胃がギュッと絞られたように気持ち悪くて、肺が萎縮したように苦しい

「ほ、保健室に行こう!連れて行くから、死ぬな・・・!」

死にたくない。死にたくない。二度目なんて、そんなの、嫌だ
こんな(頭おかしい)こと、誰にも言えやしないんだ

僕は保健室の戸が見えた辺りで血を吐いて気を失った