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「っげほ、ぐっ、」
「こんな弱い身体で、力で、僕に敵うと思ったの?」

頭や鼻から血を流す三郎は、***に傷一つつけられない。当たり前だ、だって***は特別だから
周りの見物人は遠巻きに青ざめてるだけで助けられない。その圧倒的力の前に、騒ぎに混ざろとした七松先輩がバレーボールを掲げたまま停止してる
僕の里の人たちは***を敬い崇めていたから、***は今まで人間は守る対象だと思っていたはず
それが今、***にはない。***の鋭くなった目と尖る八重歯が、小さいときと変わらぬ褐色の肌で殺気立っていた

「***っ、なにが」
「・・・ッあ゛!」

木を折る形で身体を打ちつけた三郎に、八左ヱ門が駆け寄る。八左ヱ門は***をみながらどうしたんだと一所懸命話しかけるけど、***は縋る手を振り払うように造作もなくたった一撃で八左ヱ門を地に伏せさせ三郎の首をつかみ軽々持ち上げた
地面で血反吐吐いてお腹をおさえる八左ヱ門と、自分の体重が首一点にかかりもがく三郎。止めに入ろうとした先生方は、戦場を知る故か***が睨むでもない目を向けただけで息をのむ
今の***は圧倒的で、そしてすごく綺麗だ。不謹慎だけど、でも、里で話し伝えられる鬼の話とまったく同じだから

ああ・・・そっか、***にとってここは外敵なんだ

「下手に刺激すれば鉢屋の首が離れます。」
「ですがっ、このままではどっちにしても」
「わかっています!だが、あの子は私たちなどで太刀打ちできる次元の生き物ではありません。」

先生方が話してるのが耳に届く。そうしてる間にも、三郎の顔から色が消えていく
八左ヱ門の吐く血も濃くなっているし、早くとめなきゃ
でも、僕に止められるの?***を自分勝手に突き放した僕なんかに、***を

「・・・あれ、」

角がはい。はたと気づいた僕は、***にはついていて当たり前の角が見あたらないことに驚き、そして***がこんなの全然本気じゃないことを知った

「っ、***っ!ダメっ、やめて!」

やるしかない。決心して飛び出した僕は、苦無がひっかき傷すら作らない***の腕をつかみ、***に抱きつく
不思議そうに僕をみた***が僕を呼ぼうとして言い淀み、三郎がほとんど空気みたいな声で僕を呼んだ

「***っ、ごめん、ごめんねっ、ごめんなさいっ・・・!」

その手を離してというつもりが、僕の口は勝手に言葉を吐き出していく
謝って謝って謝って、無視をして避けて沢山傷つけたことをひたすら謝った

「どうしたの・・・?」
「ごめん、ごめんね、僕、僕自己保身のために、君を無視したんだ!ごめんっ、」
「・・・雷蔵くん、」

泣き出した僕につられて***の目がふっと柔らかく丸くなって、そこから涙が溢れる
三郎が地面に落ちて、先生方が漸く駆け寄ってきた

「雷蔵くんっ、雷蔵くんなんでっ・・・!僕っ、悲しくて、」
「ごめんなさいっ、無視してごめん!」

わんわん泣く僕と***に先生方は顔を見合わせ、そして野次馬を散らす
三郎と八左ヱ門は医務室に早急に運ばれて、***は事情を聞くために学園長の庵へ
僕は***のそばにいればいいのか、医務室に行けばいいのか。わからないまま暫くその場を動けなかった