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「八左ヱ門、少しいい?」
「おう。」

雷蔵が八左ヱ門をつれて教室を出て行く。私に聞かれたくない話なのか、二人きりで話したいだけなのか
たまらず隠れて追い覗きみれば、ここ最近おかしかった雷蔵が深く頭を下げていた

「ちょ、おい雷蔵、なんの」
「僕の***を、とらないで。」
「は・・・?」

困惑しているのは八左ヱ門だけでなく私も。雷蔵は、お願いだと八左ヱ門の胸元を縋るようにつかむとぼろぼろと泣く

「***はっ、***は僕の大切な親友なんだ!八左ヱ門お願い、***を好きにならないでっ、」
「そ、そんな、急にどうしたんだよ。それに、俺、もう好きだって***に言っちま」
「知ってるよ!!」

泣き顔のまま怒りを含む声で叫んだ雷蔵に怯んだ八左ヱ門は、雷蔵も好きなのかと静かに聞いた。雷蔵は昔からずっとなんだと地面に座り込んで下を向く

「・・・雷蔵、俺、・・・その、***が下の名前で呼ぶの、雷蔵だけ、なんだ。だから、雷蔵が想いを伝えりゃそれで済むんじゃないのか?」

そこまで盗み聞き、私は耐えきれずその場から離れた
知ってしまった、雷蔵の本音を。気づいてしまった、自分の好意の種類を。悟ってしまった、雷蔵が私に見ていた役割を

「私はっ、あいつの代わりなんかじゃないんだ・・・!!」

はじめまして鉢屋くん。そう笑った雷蔵は、私を特別扱いしてくれた。顔を貸してくれて、いつも一緒にいてくれた
なのに今更、全部身代わりだなんて、ふざけるな!

「おい化け物!」
「っ、え、えっ、」

鷲だか鷹だか、私には区別のつかない猛禽類が肩から私を睨みつける。私は構わず共襟を掴んでその身体を飼育小屋に叩きつけた

「なっ、なにっ?」
「私の居場所は雷蔵のそばにしかないんだっ!あんたにはあるだろっ、あの奇妙な先輩方や誑かした八左ヱ門が!なんでっ、化け物のあんたには居場所があるのに私から更にとっていくんだっ!!」

知らない、なんのこと、と首をふる姿は、首元を絞めても歪まない。なんで、こいつはこんな余裕なんだ

「お願いだから、離して、ほしい・・・けど、ダメかな、」
「消えてくれ。」

びくっと顔が強張り、僕君に何かした・・・?と手がつかまれる
そっ。と音がつくようなつかまれかたなのに、ずっしり重くて痛い

「僕、なにもしてないよね?」
「ああしてないさ。雷蔵の視界に入る以外はなにもな。」
「・・・それは、」

私はこいつをろくに知らない。力がありすぎて破壊神なんて笑われて組に馴染めていない、異質な存在
私はそんな奇異の代わりをさせられてたのかという腹立たしさと、雷蔵に捨てられる恐怖。すべてが、こいつへの怒りに昇華されてる

「それは、僕の存在が邪魔だって、こと?」
「それ以外にどう聞こえたんだ?」
「・・・僕、もう、我慢しないことにしたんだ。」

は?と口にした私は、瞬き一つの間に塀へとめり込んだ
ガラガラと瓦や壁が崩れ、気を失いかける

「僕につかみかかってきたのは、君だからね。」