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「竹谷くん、飼育小屋が壊れてしまったんだ。修理、手伝ってくれる?」
「あ、ああ、もちろんだ。」

俺の目をみておどおどせずに話しかけてきた***に驚きながらも頷いて、一緒に飯を食ってた三郎と雷蔵に断りをいれて***についていく
同じ学年にも関わらず***が委員長に選ばれたのは必然だし、周りがなんといおうがなんの疑問も持っていない。***の知識も技量も生き物への愛情も俺のそれを各段に上回っているからかな
委員長代理ではなく委員長という肩書きだけで、先生方もそれを認めているのがわかる

「な、なぁ、」
「はい・・・?」
「俺、あの、俺の、こと、」

ばさっと白が***の肩にとまり、その鋭利な爪を肉に引っ掛けた。けれど***は痛みなど感じず言い淀む俺を待ってくれる
なんで***は、こう些細なとこから優しいんだろう

「俺のこと、嫌いなんじゃ、」
「・・・嫌いじゃないよ。」

何でそんなことを聞くのかと首を傾げた***が、そっか、そっか!と思わず笑う俺につられるように微かに口元を緩ませた

「笑った!」
「っ、」
「あ、悪い、」

びくっとはねて強張る***に即座に謝って、偶には部屋に帰ってこいよ、寂しいだろと隠しきれずに笑う
それにさみしい?と不思議そうにぱちぱちと瞬きを繰り返す***は、さみしくしてごめんねと小さく謝った

「いや、別に謝ってほしいわけじゃねーし・・・は、はやく行こうぜ、飼育小屋。」
「うん、行こう。」

なんだこれ、いきなり進展したぞと嬉しそうに***と飼育小屋まで行き、黙々と小屋を直す
会話はないが、俺はなんだか楽しい

「先輩、赤を連れて行ったのか。」
「うん。僕は白と共にこの学園を去るつもり。次の委員長は孫兵くんだけど、きっと、ジュンコさんがいるから黄は残るんだ。」

孫兵くんの次の委員長が、きっと黄を連れて行ってくれる。緑や青を委員長が連れて行ってくれたように。そう笑った***は、修理の済んだ小屋に触れて竹谷くんは今年も生物委員だったねと不思議そうに俺をみる

「普通は学期ごとに委員会決めがあるし、そこが同じでも学年で変わる。なんで、今年も生物委員になったの?」
「なんで、って、いや、なんか・・・なんとなく、かな。」
「僕は竹谷くんが苦手だから、委員会に竹谷くんがいるとどうしても緊張しちゃうんだ。でも感謝もしてる。僕、弱い人間って怖いから。一年生も僕より竹谷くんのほうがいいみたいだし。」

そう言って振り返った***につられれば、一平たちが伺うようにこっちをみていた
気づかなくて情けなくなりながら、一平たちが***に近寄りがたく思っているのが手に取るようにわかって苦笑する

「ならさ、一年は俺が面倒みるから・・・なんでいるのかなんて、聞かないでくれよ。」
「うん、わかった。」
「俺***が好きなんだ。」

あまりにするっとでた言葉に俺が驚いて、***はごめんねと顔をそらした
やっちまったと人としてだと訂正しようとするが、違った。俺、***が好きなんだ、間違えようがなく

「いやいや、俺こそいきなりごめんな。」
「うん。大丈夫・・・からかうつもりがないことは、ちゃんとわかるし・・・僕に気を使ったわけじゃないことも、わかる、から。」

ちょっと嬉しいと笑った***に気を取られてすぐに、刺さる殺意に慌てて周りを見回す
そこにいたのは雷蔵で、隣にいる三郎が俺よりもそんな雷蔵に驚いていた

「・・・?雷蔵、くん、」

俺に気づいてはっとして、雷蔵は自分を信じられないもののように青ざめながらどっかへ逃げる
それを三郎が追い、俺は初めて誰かを下の名で呼ぶ***の声を聞いた